「当たり前だ。流行りのケータイ小説では『俺のものは俺のもの。お前のものは俺のもの』というジャイアニズムが多発しているのだぞ?
それで天然主人公は鈍感ながらも意味を理解し、恥じらいながらも胸キュンになる展開が王道なのだが。
まさか、空、所有物という単語では気持ちが伝わりにくかったのか? うーん謎だな、謎。空は天然系か? 鈍ちゃんなのか?」
いえ、先輩が根本的に気持ちの伝え方を間違っているだけです。
一体全体、俺に何を求めているんですか、先輩。
まさか恥じらいながらも胸キュンして欲しかった?
ジョーダン、俺は乙女になれない。
俺にだって普通の恋愛をして、女の子をリードしていきたい願望はあるんだ。
それを行動に移せないだけで、片隅で願望は抱いている。
話している間も、先輩は丁寧にイチゴミルクオレで濡れた手を拭いてくれている。
それに気付き、「もういいっすよ」俺は手を引く。
引こうとした。
持っていた潰れかけの紙パックが地面に落ちる。
俺はそれを拾う手立てがない。
だって先輩が俺に抱き付いてきたんだ。
拾うことなんてできない。
腕の力を強くしてくる先輩を横目で見ながら、俺はこっそりと深呼吸。
お、お、落ち着け。落ち着け。落ち着け。
俺は今、美人さんに抱き締められているだけだ。
いつもだったらもっと濃厚なスキンシップをしているんだぞ。
だから落ち着け。落ち着け。落ち着け! 俺の心臓うるせぇぞ。
「先輩?」
声を掛ければ更に腕の力が強くなる。
「家柄など端っから気にしていない。気にしているのならば、あたしはとっくに、空を諦めている」
その言葉は哀愁漂っていた。
抱き締めてくる先輩が急に小さく見える。俺は無償に先輩を抱き締めたくなる衝動に駆られた。
そして妙に守ってやりたくなる気持ちになった。
どんなに肉食系攻撃型女子でも先輩は女の子なんだよな。
こういう時こそ、俺、男を見せたい。
受け身は自分でも自覚しているけど、少しくらい男を見せたいじゃないか。
だけど、俺が行動を起こす前に先輩が顔を上げた。



