「愛されていますね」
母さんに揶揄されて俺は真っ赤っか。
「照れている」
先輩に指摘され、無言で亀布団に成り下がる。先輩も母さんも畜生だ。
湧き立つ笑声も程々に先輩は腕時計を見て時間を確かめると、そろそろお暇すると言葉を掛けてきた。
もうそんな時間か。
布団を跳ね退けて上体を起こした俺は、「じゃあまた」身支度をする先輩に微笑する。
退院しても明日、あさっては学校に行けそうにない。
学校で会える日は早くても三日後だと思う。
その旨を伝えると、明日は退院祝いの電話をすると先輩。
俺に軽く手を振り、母さんに頭を下げ、病室を出て行く。
見送りが出来ない俺の代わりに、母さんが廊下まで先輩を見送ってくれた。
数分も経たず戻って来た母さんは先輩が座っていたスツールに腰掛け、持参してきた手提げ袋からクリーム色のカーディガンを取り出す。
「今日は冷えるそうですよ空さん。あったかくして夜を過ごさないと」
カーディガンを広げて俺の肩にそっと掛けた。
母さんは俺が入院してからずっと、病院で寝泊りを繰り返している。
意識がない時も、目を覚ましてからも、ずっとずっと傍にいてくれる。
それこそ仕事を休んでまで傍にいてくれる。一日だって欠かしたことがない。
家で休んでもいいと言うのに、母さんは大丈夫ですよの一笑で流してしまう。
心配を掛けた手前、母さんに家に帰って休んでよとか、無理するなよとか、強くは言えない。
だって俺が目を覚ました時、誰よりも先に息子に縋って泣き崩れたのは母さんだったから。
鉛のように重たい瞼を持ち上げた先で、母さんは無事と心配と不安、すべてを一斉に爆ぜさせて目が覚めたばかりの息子を掻き抱いてくれた。
まだ状況把握もできていない息子をただひたすらに。
幼少の記憶と被った。
あの日あの時あの瞬間も、目覚めたばかりの意識不明の重体だった子供を母さんは掻き抱いてくれた。
びっくりするくらい、やつれ、老け込んでいた母さんの姿を目の当たりにしたからこそ、強くは言えない。
父さんも負けず劣らずやつれ、老け込んでたけどさ。母さんの方がやつれ具合が上回っていた気がする。
今はそんな面影、一欠けらも見せないけれど。



