「ここに付けていた痕が消えている。空、何か言うことがあるんじゃないか?」
何か言うこと、と言われても……う、ぎらついた目で俺を見ないで下さい。察してしまうじゃないですか。
「空はあたしの、なあに?」
「……か、彼女かなぁ。ポジション的に」
生物学上はれっきしとた男だ。これだけは変えられない。
今後変わるかもしれないけれど。
「確かにあたしのヒロインで彼女。けれど、あんたは誰でもないあたしの所有物だ。つまり、あたしのものだということだ。空も承知であたしの傍にいる筈。いや、望んで、だな」
正しくは貴方様に落とされたんですよ。俺は。
強引な戦法で攻めに攻められて、気付いたら先輩を好きになっていた。この責任は彼女にある。
「空」含み笑いを零す先輩に唸り、「ちょうだい」俺は白旗を振るかわりにおねだりを口にした。
「所有物の証をちょうだい」
言って大後悔である。
容赦の欠片もないあたし様は、無遠慮に痕をつけまくり、ようやくご満悦。
手鏡で確認した俺はどうやってこれを隠せばいいのかと悩む羽目になる。
一日、二日じゃ消えないであろう痕は、己の存在を主張している。
本当に彼女の所有物になった気分だ。否、俺は彼女の所有物なんだ。
「先輩……もう少し、手加減して下さいよ。虫刺され、じゃあ誤魔化せないですよ。これ」
「馬鹿を言え。好きな相手にはいつだって全力で向かう。それがあたしの、空に対する気持ちだ」
好きな男を攻めることが生き甲斐だと言い切る彼女に、嬉しさ半分、複雑半分。
こんなことを続けていたら、近々まじで食われそう。
高校生でエッチは断固反対なんだけど……流されそうな俺がいそうで怖い。
扉がノックされる。
返事をすると、「私ですよ」朗らかな声と共に母さんが病室に入ってくる。
不味い。
俺は急いで首筋を隠すように、手の甲で何度もそこを擦る。
それに気付かない母さんは鈴理先輩の姿に目尻を下げて、「いつもありがとうございます」会釈をひとつ。
会釈を返す先輩は「彼女ですから」嬉しそうに口角を緩めた。



