前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―



地面に叩きつかれる衝撃によって、軽く遠のいていた意識が戻る。


「空、空!」


ひっきりなしに俺を呼ぶ先輩は、身を捩って顔を覗き込んできた。

その拍子にぬるっとした俺の鮮血が彼女の制服を汚す。


出血していることに気付いた彼女は、手の平でそれを確かめるや、荒呼吸を繰り返すへたれくんに死ぬなと縋ってきた。


大丈夫、俺は死なない。

単に右腕を撃たれただけだから。


ただ。


「いってぇ……もう、むり。痛くてどうにかなりそう」


右腕が焼け爛れているみたいに痛い。

力なく四肢を投げ出して、ただただ定まらない焦点をあちらこちらに流す。


体勢を変えるために仰向けに寝転がった。

痛みのあまりに呼吸も止まりそうだ。


畜生、十年分くらいの怪我は負ったんじゃね?


もうイヤだ。

痛いのはイヤだ。

俺は受け男だけどMじゃないんだ。


痛いのは大嫌いなんだ。

誰だよ、痛感が快感とか思い始めた奴。


精神的Mはまだ分かるけど、身体的Mの気持ちはちっとも分かん……やっぱ精神的Mも分かんねぇや。

大切なことだから二回言うけど俺はMじゃないんだっつーの。


「せんぱい、けがは?」


うつらうつらと縋っている彼女に声を掛ければ、「あたしはどうでもいいんだ!」怒鳴られてしまった。


泣きそうな顔を直視してしまったために、なんとも決まり悪い。


だから俺は今の心境を正直に答えた。


「ぶっちゃけ……腕でよかった。一瞬心臓を撃たれたかと………超怖かったっす」


あの時、咄嗟の判断で木枝を投げ付けていなければ、犯人の手元を狂わせていなければ、俺は心臓、もしくは腹部に穴をあけられたに違いない。そう思うだけで恐怖だ。


同調してくれる先輩は顔を歪めながら何度も、


「そうだなっ。そうだなっ」


首を縦に振り、相槌を打ってくれた。


「あたしも、脳天に風穴をあけられるかと思った。ぶっちゃけると、かなりの恐怖だった。悔しいがっ、あたしを助けようとしたあんたの姿は男だったぞ」

「ヒーローっすね……俺」

「馬鹿。ヒーローはあたしであんたはヒロインだ」


そこだけは頑なに否定してくれるんっすね、先輩。


「じゃあもうヒロインでいいっす。ヒーローを守るヒロインってのも悪くないでしょう?」


軽い口振りに先輩は安堵した様子だ。

俺も安堵の笑みを返す。


やっと心から笑えた気がした。