前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―




――ザッ、ザザザッ、バキッ。



急斜面を転げ転げて、宙に飛ばされてそのまま急降下。

重力に従って落ちる体二つは地面に叩きつけられた。

人間の下敷きになり、呼吸さえ忘れて痛みに耐える。


腕だけはこれっぽちも解くつもりはなかった。


次第に呼吸ができるようになると、俺は朦朧とその場で呼吸を繰り返す。


肺に酸素を入れ、二酸化炭素を吐き出す、それだけで生きている実感が湧く気がした。


ははっ、俺もしぶといね、ちゃーんと生きているよ。

左肩が痛むのは、二人分の体重が勢いよく滑り落ちたせいだろう。


太い木の枝が突き刺さってやんの。


だっせぇ。抜く元気もねぇや。


ゼェゼェ、ひゅうひゅう呼吸を繰り返す俺の上にいる先輩は、腕から脱して顔を覗き込んでくる。


「空。大丈夫か、あたしが分かるか?」

「先輩……怪我、ないっすか?」


あ、可愛い顔にかすり傷が付いている。


「……大馬鹿者め、あたしを守ることばかりして。ヒロインのくせに生意気なのだから」


悔しそうに、でも憂い帯びた瞳を見つめ返して俺は綻ぶ。


「今は俺が……ヒーローです。すみませんね、ポジションを奪って」


たらっとこめかみに伝う自分の鮮血を感じながら、したりと顔を作る。


さあ、こんなところで足踏みしている場合じゃないですよ先輩。逃げないと。あいつ等が追って来る。


あ、でもやっべぇ。

体が動かない。


結構なまでにダメージが出ている?

ちょい休憩しないと無理?


いやいやいや、命あっての物種。


体が限界を訴えても逃げて、逃げて、逃げ切らないと実親の下に逝っちまう。


そりゃ父さん母さんには会いたい。だけど俺はまだそっちには逝けないんだ。


まだ育ててくれた両親と、ちゃんと向き合ってもいないんだから。

なあ、信義父さん、由梨絵母さん、二人もそう言ってくれるだろう? そっちに逝くには早いよな?


「……逃げましょう」


無理やり上体を起こす俺の背中を支え、「一緒にだぞ」彼女はしっかりと釘を刺してくる。