前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―



能天気なことに向こうはうたた寝をしているから、今はそっとしておいて取り敢えずロープをどうにかしないと。

できるだけ誘拐犯と対峙するような真似だけはしたくない。

怪我をする危険性もあるし、相手は腐っても大人。子供の俺等じゃ不利だ。


幸い、軟禁されている一室には工具類は沢山あるんだ。


なにか一つ、ロープを切れそうな鋭利のある物があってもいいだろう。

先輩と工具を目で探っていると、くっしゅん、向こうでくしゃみが聞こえた。


ギクリ、俺と先輩はゆっくり振り返る。

あ、大丈夫、あいつはまだ寝ている。


こっくりこっくりと寝ているものだから、重そうな眼鏡がズレてきている。

あのままじゃ落ちるんじゃないか?

オッサンの眼鏡は度の強いレンズを使っているに違いない。

あの寝方でズレてくるってことは、オッサンは視力が弱いのかもしれない。


大丈夫かな、落ちて、そのまま起きたりは……いや、大丈夫か。考え過ぎだな。

神経が異常なほどピリピリしているものだから、あれこれ憂慮を抱いちまう。


「なんかあるっすか?」

「いや。ないな」


困った、俺達は肩を落とす。

両手を縛られていちゃあ、逃げることも困難だ。


「食い千切ることも、なあ。あいつのダガーナイフが手に入れば、容易くロープが切れるんだろうが」

「危険過ぎますっす。ガタイ良さそうですし、幾ら寝ているからとはいえ勝算があるとも言えませんし」


「そうは言っても、このままでは」


カラン。

今の音は、まさか。

ぎこちなく首を捻れば、大欠伸を零す眼鏡オッサンの姿。

やっぱり視力が弱いのか、眼鏡が落ちたことにちょい慌てている様子。


でも俺達のことは見えているわけだから、拾った眼鏡の向こうを見て何しているんだと眉根を寄せる。


ですよね、人質達が立ち上がって何かしているんっすから、そりゃあそんなお顔をするのが妥当かと。


ま、ま、不味い!


「あ、先輩!」 

 
地を蹴って先輩が駆け出した。

まさか先輩が突っ込んでくると思わなかったんだろう。

胡坐を掻いて座っていた眼鏡オッサンは度肝を抜いていた。