「ベレッタだ」
わざわざ銃の名前を教えてくれるスキンヘッドオッサンは「早く金を用意するこったな」、携帯の向こうにいる両親に高飛車口調で命令していた。胸糞悪いな。
「ん? 息子か? さあな、撃っちまったかもしんねぇし、助かってるかもしんねぇ」
意地悪い笑みを浮かべ、スキンヘッドオッサンは部屋を退室。
倣ってお仲間も退室していく。
体重を掛けていた眼鏡オッサンも、俺の上から退いてくれた。
重かった。
容赦ない攻撃だった。
子供に大人気ない応対だな阿呆め。
立ち去って行く誘拐犯達の背中を睨みつける。
無情に鍵を閉められ、俺達はまた一室に閉じ込められる形になった。
どうにか体を起こす俺は痛む体を無視して、蒼白し切っている先輩に視線を流す。
腰が抜けているのか、ショックが大きかったのか、微動だにしない。
色の悪い唇は戦慄いている。
俺は笑っている膝に喝を入れて、ゆっくりと立ち上がり、鈴理先輩の下に歩んだ。
彼女の前で腰を下ろす。
「先輩、大丈夫っすか? 頬、赤くなっているすね」
さっき引っ叩かれた右頬がりんごみたいに赤く染まっている。
女の子の顔を殴るなんて、あいつ、マジ最悪だろ。
放心状態になっていた先輩は我に返ると、クシャクシャに顔を顰めて「あたしはどうでもいいだろう」自分の心配をしろと、声音を振るわせた。
心配をさせてしまったようだ。
俺はごめんなさい、真摯に詫びを口にする。
唇を噛み締める彼女は、「空っ!」俺の肩口に顔を埋めてきた。震えている小さな体躯を抱き締めたい。
けど、今の状態じゃ無理だ。
彼女だって俺を抱き締めたいだろうけど、今の状態じゃ……。
だから俺は彼女の顔に頬を寄せた。
もう大丈夫ですよ、あいつ等は向こうに行きましたよ、俺は此処にいますよ、の意味を込めて。
ふと首筋に落ちてきた雫。
切りつけられた傷と交じってちょい沁みた。泣いているんだって気付いたけど、それを口には出さない。
先輩はプライドが高そうだからな。何も言わず、ただ頬を寄せた。
頬を寄せれば寄せるほど、先輩の匂いが、甘い匂いが鼻腔を擽ってくる。良い匂いで安心する香りだと思う。



