そんな彼女が俺にプレゼント、支えられてばっかりな手前、申し訳ない気分にな…………先輩、これは。


机上に並べられていく文庫とそのタイトルに引き攣り笑い。

ナニナニ、そっちの文庫のタイトルは『俺様アイドルと庶民娘』で、奥のそれは『ヤンキーくんと喧嘩ラブ!』で、手前は『イケメン逆ハー学院』だと?


先輩、これを俺にどうしろって言うんっすか。


沢山並べられたケータイ小説文庫に遠目を作り、


「あの。これは?」


彼女に説明を求める。

ふふんと鼻を鳴らす先輩は得意気にのたまった。


「これはな空、あたしが愛読しているケータイ小説の一部だ」


いや、見りゃ分かるっすよ、それは。

俺が聞きたいのはこれをどうして欲しいのかなんですが。


三点リーダーをいつまでも出す俺を余所に彼女は意気揚々と口を開く。


「ケータイ小説を読んで、空の気晴らしになればと思ってな。空の勉強にもなるだろ? どういうシチュエーションで押し倒されたいか、これを参考にすれば良い」


いかにも俺が押し倒されたいような口振り。

参考も畜生もないっすよ先輩。


「ちなみにこれはやるから安心しろよ。感想報告は必須だからな? 空の感想を考慮にいれながら、攻めの戦略を考えていくつもりだから」

「え゛?」


なんですと?


「もし読まなかったり、報告しなかったりしたらどうなるか分かるな? あたし直々のプレゼントを、無駄するような真似したら、そりゃもう空に(ピ――“放送禁止用語”――)な仕置きをするからな?」


朝っぱらから放送禁止用語プラス、意地の悪い笑みを浮かべて先輩は紙袋に本を仕舞っていく。


んでもって、紙袋ごとそれを俺の机に置き、自分は教室に帰ると告げ出て行ってしまった。


その際、頬にキスされちまって、うわぁあああああああな気分。


教室にいるクラスメートの反応を見ることも出来ず、俺はキスされた頬を触ってふうっと吐息。机に伏してどどーんと落ち込んだ。


せ……先輩なりの励まし、俺には逆効果っすよ!


なんっすか感想って。

このケータイ小説文庫達はどうすればいいんっすか! まさか家に持って帰れと言うんっすかっ、俺に読めと言うんっすかぁあああ!



軽く見積もって十冊はあるっすけど、全然読む気になんないっす。

感想とかどうすりゃいいんっすか。


唸り声を出す俺は、取り敢えず席についてケータイ小説文庫の一冊を手に取り、適当なページを開いてみた。

 
『あんたなんてだ、だ、大嫌いなんだからね!』

『その逆のくせに。キスして欲しいんだろうが、ほらこっち来い。それとも強引にされたいか? ああ、お前はそっちの方が好きだもんな』

『そんなわけなっ、ちょ、来な―っ、ん』


………パタン。


静かに文庫を閉じ、俺は頭を抱えた。


どーしようこれ。


読破できる気がしない。

感想とか絶対に書けそうな気がしない。

参考にすらなんないっすっ! 押し倒されたいとか、思ってもいないのにぃいいい!


そりゃ食われてもイイゆーたけど、それは随分先の先の先のさきぃーの話だしさっ!


あああっ、悩みで一杯の俺にまた悩みがひとつ。

ある意味一番の悩みかもしれない、これ。



「まさか嫌がらせじゃないっすよね先輩……はぁあ……人生ほろ苦く、すっぱく、しょっぱく……チョー刺激っすよ」



ガックシ肩を落とす俺、豊福空だった。