「これから、何度だって見ればいい。遅くなんてない。これから、何度もこの世界を見ればいい……ただな、空。あんたの高所恐怖症、無理に克服しようと思わなくてもいいと思う。

思えば思うほど、あんたは無理する。
連動して自責の念が強くなる。それでは駄目だ。


あんたの大好きだったご両親も悲しむ。


あんたは先ほど言ったな、世界で一番の親不孝をした、と。

きっとそれこそご両親にとって親不孝な発言だと、あたしは思うんだ。


ご両親はあんたに自責などして欲しくない。
自分自身を傷付けて、自分の存在を否定するような発言だけはして欲しくないと思うんだ。

傷付いているあんたを抱き締めることもできなくて、向こうも自責の念に駆られているかもしれない。

向こうのご両親こそ、残して逝ってしまったあんたに日夜謝罪のシグナルを送っているのかもしれない。


空、高所恐怖症はあんたの感情の一部であり過去の産物。
それを否定し、無理やり克服するのではなく、共に歩んでいく勇気を持つべきだとあたしは思う。

今まで克服すると固く決意して抱いていたその恐怖心を受け入れて、ゆっくりと時間を掛けて感情と向き合い、歩んでいけばいい。


現にあんたは恐怖心と向き合い、和解した上でこうして外界の景色を見ているではないか。

ひとつ、あんたは恐怖心と自分の感情をひとつに解け合わすことができた。それだけで大きな一歩だと思わないか?


ダイジョーブ、空は弱くない。
この状況だって乗り越えられるさ。ヒトリじゃ無理なら、あたしが後押ししてやる。それがヒーローの務めだ」

 
おどけ口調で話す彼女を流し目にし、俺は曖昧に笑った。

ちゃんと笑えているか微妙なところではあったけど、頬の筋肉が軽く緩んでいるのは分かるんだ。笑えているんだと思う。


ふっと俺は口を開いて疑問を彼女にぶつける。

もしも……もしも、あの日あの時あの瞬間、両親が助かっていたら、俺は今頃どうなっていたんだろう。


別次元の俺は和気藹々と実親と暮らしていたのだろうか? 今の両親とは叔父叔母のままで、それなりに交流のある関係を築き上げていたのだろうか?



――彼女、先輩とは出会えていたのだろうか?