放課後、帰りのSHRが終わった俺はフライト兄弟に連れられ中庭に来ていた。
俺の悩んでいる姿に気付いて気遣ってくれたんだと思う。
休憩所として設置されている四人掛け木製テーブルに着くや否や、アジくんは席を立って一旦何処かへ行ってしまう。
何処へ行ったのかと思えば、紙パックのイチゴミルクオレを片手に戻って来てくれた。
「ほら」
なんて差し出された瞬間、俺、泣きそうになった。
だって、アジくん、それは一パック八十円する飲み物じゃないですか。
それを俺に奢って下さるなんて、貴方はどんだけ寛大な神様ですか。
この男前、羨ましいくらい男前だ、アジくん!
「有り難く頂きます」
俺は頭を深く下げてそれを受け取った。
「アジくん。今からイチゴくんってあだ名に変えてもいいかな?」
なんでイチゴくんか?
そりゃイチゴミルクオレを奢って下さったからに決まっているじゃないか!
けどアジくんは「だめだめ」突っ返してきた。
「俺がイチゴくんになったら、フライト兄弟が解散するだろ? 俺、笹野とフライト兄弟って気に入っているんだから。な、笹野!」
ズルッとエビくんがずっこけそうになる。
「君って男は」
ズレた眼鏡を押し上げて溜息。
「本多は根本的に否定する箇所が間違っている」
「面白いじゃんか。フライト兄弟。揚げ物で例えられた兄弟なんてそうはいないぜ?」
「僕はエビになった覚えなんて一切ない」
「ノリは大切だって」
男前にニカッと笑うアジくんにエビくんは脱力。
「イカリングを空くんにあげていたら僕はイカくんだったんだろうか」
ぼやきにアジくんが吹き出している。
「イカでも良かったんじゃね?」
アジくんが能天気に言うから、エビくんはもっと脱力。
余所で俺は八十円するイチゴミルクを堪能。
ああ美味い、八十円の味がする。贅沢なお味。
イチゴミルクオレなんて何年ぶりだろう。
ジーンと至福に浸っていると、エビくんが話を切り出してきた。
「空くんは竹之内先輩が好きになったの?」
理解するのに三拍ほど間が空いた。
「ゴフッ……ゲホッゲホゲホ! な、なんで」
慌てふためく俺に二人は揃って「好きになったんだ」と口角をつり上げる。
俺の反応を楽しんでやがる。