「凄い汗だな」
ちょっと待ってろ、言うやポケットから若葉色のハンカチを取り出して汗を拭ってくれる。
「魘されていたみたいだぞ。顔色が悪い。お茶でも飲めば気が落ち着くかもしれん」
先輩は文庫を閉じるとベッドにそれを置いて、腰を上げた。
カーテン向こうに姿を消す先輩を見送って、俺は現状を把握する。
そうか俺は夢を見ていたんだ。
夢、いや記憶を辿っていたんだ。
クシャクシャに俺は笑った。
なんっつー夢を見ちまうんだろう。
あーあ、ほんっと参っちまうって。
右腕で両目を覆って俺は気を落ち着ける。
大丈夫、こんなんで挫けたってしゃーないんだ。
もう終わっちまったことなんだから。
「空」
先輩の声がして、俺は腕を退けると上体を起こした。
ピンピン跳ねている髪をそのままに、彼女からカップを受け取って喉を潤す。
中身はアクエリのようだ。
多分病人用の飲み物だろう。てっきりお茶だと思っていたもんだから、甘味が口腔に広がった瞬間驚いちまった。
中身を確かめず飲んだってのも原因だ。
けれどアクエリを食道に通しただけでなんだかホッとした。
一気に飲み干して俺は生き返ったと綻ぶ。水分不足だったみたいだ。体に沁みる。
「ありがとうございます。助かりました。えーっと、今はまだ昼休みっすか?」
「いや。放課後だ」
まじっすか。
顔を引き攣らせる俺に、「何度か起きたんだがな。すぐにまた寝てしまったよ」と先輩。
ということは彼女はずっと俺の傍にいてくれたんだろう。
曰く、昼休みからずっと一緒にいたらしい。
それこそ授業すらほっぽらかして。
俺の担任が来て授業に出るよう言ったらしいけど、そこはあたし様をいかんなく発揮して無理やり此処にいると主張したそうだ。
ははっ、あたし様強ぇ。
俺が目を覚ましたら、保健室の先生にその旨を伝え、帰宅してもいいそうだ。担任には保健室の先生が伝達してくれるそうだから。
「帰れそうか?」
先輩の問い掛けに、「もうヘーキっす」俺は元気よく返事をした。
随分寝たみたいだからな。気分は幾分スッキリしている。幾分だけどさ。



