――空、そんな拗ねた顔しないで。ね?
由梨絵母さんの声。
俺は顔を上げて由梨絵母さんを見上げるんだけど、あからさま脹れっ面を作っていた。手の焼くスネスネマンになっていた。
理由は簡単。
また約束をすっぽかされたからだ。
引越しを繰り返す転勤族の我が家は、何かと休日・祝日にも仕事が入る。
幼い俺には両親がなんの仕事をしているのかはサッパリだったけど、仕事のせいで毎度の如く約束をすっぽかされることだけは認識していた。
つまり仕事は俺の敵だったんだ。
その日も両親が休日に遊んでくれると言ったのに遊んでくれなくて、俺は不貞腐れてしまっていた。
「空、約束。今度の日曜日、お父さんやお母さんと一緒に公園で遊びましょう。だから、ね。今日のお出掛けは我慢してくれる? 楽しみにしていたの、知っていたんだけどお父さんがお仕事になって」
見かねた由梨絵母さんは、次は絶対約束するからと俺に約束を取り付けてくれる。
信じられない目で由梨絵母さんを見ていた俺だけど、
「公園で遊んだ後。ハンバーグを食べに行きましょう?」
子供にとって極上の案を出してきた。
両親と遊んだ後、ハンバーグも食べられる。それはとても嬉しい。
「じゃあ絶対に約束」
今日は我慢するから、俺は由梨絵母さんと指きりをして約束を呑んだ。
今度破ったら本当に怒ると言う俺に、「大丈夫」今度は絶対に守るからと由梨絵母さんは一笑。
仕事から帰ってきた父さん、信義(のぶよし)父さんも同じように約束してくれた。
「オモチャも買ってやろうかな」
いつも我慢してくれるご褒美だと信義父さんは言ってくれたっけ。
今度こそ大丈夫だって分かった俺は来週の日曜を楽しみにした。
水曜日辺りに、由梨絵母さんが裕作叔父と久仁子叔母が来ると教えてくれたからテンションはハイハイ。
だって俺は叔父さん叔母さんが大好きだったから。
子供に恵まれていない彼等は、会う度にいつも俺に優しくしてくれた。
俺の中では大好きと位置づけられる人達だった。



