「いいのですわ。そう隠さなくても」
宇津木先輩に言われて、
「だから、違うっつってるだろう!」
言うや否や大雅先輩は俺の体から腕を退けた。
誤解されたくないが故の行動だったんだろうけど、支えが無くなった俺は膝から崩れちまう。
どうしよう、まだ自力で立てない。
はたっと思い出したように大雅先輩は片膝をついて、「いいから俺の言うこと聞け」声を掛けてきた。
「豊福、具合が悪いどうのこうの問題じゃねえだろ。保健室で休め。こりゃ命令だからな。川島、百合子、悪いが鈴理を呼んできてくれ。俺はこいつを保健室に連れて行く」
「まあ、空さん具合が?」
一変して宇津木先輩の表情が険しくなる。
「OK、鈴理には伝えておくから。行こう、百合子」
颯爽と川島先輩は宇津木先輩と共に階段を上って行く。
羨望を抱いた。
俺も当たり前のように階段を上りたい。
一方で大雅先輩は俺をおぶって慎重に階段を下り始めた。
下を見ると怖いから先輩の肩を一点に見つめることにする。
まーだ体が携帯のバイブレーター如くブルブルしてるけど打破は諦めた。
自分でもどーしょーもねぇやい。
「すんません」
詫びをポツリ。
「まったくだ」
皮肉ってくる大雅先輩は鼻を鳴らして俺に感謝しろよ、とぶっきら棒にのたまう。
この礼は三倍返しだとか言われちまった。
さすがは俺様、タダじゃ済まないわけね。
重ねて、
「テメェが何に無理しているのか知らないが、ンな体調崩すくれぇ無理するならいっそ無理なんざやめたらいい。倒れられる方が迷惑だから」
かの俺様は平坦に台詞を紡いだ。
まさかそんなこと言われるなんて思ってなくて、「メーワク?」瞠目し、思わず聞き返す。
二拍置いて彼は舌打ちを鳴らした。
「くそっ、察しろよ。心配するっつってるんだ。俺が心配してやるんだから、さっさと本調子になれよ。じゃねえと後がひでぇぞ」
あれ、もしかして大雅先輩フツーに心配してくれて? 俺様でジコチューなのに。
向こうの顔は見れなかったけど、俺は相手の心中を察して人知れず一笑を零す。性格に難があるけど、こうして向き合ってみるとわりと優しいじゃないっすか。
うーん、いつもこうして優しくしてくれるなら普通に友達だと言うんっすけどね。
微笑を浮かべつつ、俺は瞼を下ろして相手の肩口に額を乗せた。
頭がグルグルしている。
自分でも思っている以上に絶不調だったんだろう。
けど無理なんかしてない。
高所恐怖症打破には無理していたかもしれないけど、でも俺は無理なんかしてないんっすよ大雅先輩。
これを無理と称すなんて情けないじゃないっすか。
靄の掛かる意識の中、俺はただただ無理なんてしていないと心中で大雅先輩に訴え、自身に言い聞かせ続けた。
こっから先はちょい記憶が曖昧。
俺をおぶった大雅先輩が保健室に入って、先生に事情を説明して、俺はベッドに寝かされて。
担任がどうのこうのと会話が聞こえたけど、すぐに俺はおやすみなさいモードに入って眠りに就いた。
今は眠りたかったんだ。休息が欲しくてほくしてほしくて。
柔らかな毛布に身を包みながら、俺は数分も経たず夢路を歩き始めたのだった。



