――空、約束。今度の日曜日、お父さんやお母さんと一緒に公園で遊びましょう。
脳に響く由梨絵母さんの声と一緒に、目の前が真っ暗になった。
重力の感覚をなくし、まるで雲にでも乗ったかのようにふわっとした感覚に襲われる。
階段から落ちるんだなって片隅で分かっていても、視界が現実逃避するようにブラックアウトしちまってるからどうしようもない。
ボフッ、衝撃が体に走った。痛みはさほど感じない。なんでだろ?
不意にユッサユサと体が揺すられる。
「おい豊福!」
つんざくような声で俺の視界はブラックアウトからホワイトアウト、そして本来見えるべき世界へと変化した。
瞬きをして、俺は現状を把握する。
どうやら誰かに支えられているらしい。相手の腕が見える。
ちょいと頭痛のする頭を持ち上げれば、カッターシャツとネクタイが見えた。
のろのろと視線を上げれば美形金持ちさんが、血相を変えた顔で俺を見下ろしてきている。
「おい大丈夫かよ。突然落ちてきやがって。怪我はねぇか? 顔色悪いぞ」
なるほど、階段から落ちた俺は大雅先輩に助けられたらしい。
うへぇダッセェ!
「大丈夫っす。ちょっと気分が悪くなって。先輩こそ怪我はないっすか?」
自力で立とうとするんだけど、なんか足元が覚束ない。
頭もまだくらくらする。
結果的にまだ大雅先輩の支えを借りる羽目になったんだけど、向こうは気にする素振りもなくしっかり俺の体を支えてきてくれた。
「体が震えているぞ?」
マジで大丈夫なのかと俺様に心配され、「ヨユーっす」うそぶいてみせた。
「全然余裕じゃないだろ」
毒づく大雅先輩は、仕方が無いから保健室へ連れてってやると言ってくれる。
彼は元々俺と昼飯を取るために来てくれたみたいだ。
いつから俺は大雅先輩と毎日昼飯を食べる約束をしたのか(やっぱ友達少ないんだろ! そうなんだろ!)、それは置いといて俺は保健室に行くまでじゃないからと遠慮してみせた。
そこまで大袈裟なもんでもない、ただの貧血だろうから。
「大袈裟は話だろうが。ったく、自分でも自覚してねぇくらい震えているのに、気付いてないだろ?」
支えていない腕で軽く背中を叩かれた。
気を落ち着けさせようとよしよし背中を撫でてくれる。



