前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―



先輩と別れた後、フライト兄弟がやって来て挨拶代わりに朝からラブいなっと茶化されちまった。


ついで、

「花畑から聞いたぜ」

アジくんがイチゴくんの話題を出す。


「あいつと仲良くなったんだって? てか、隣人さんだったんだって」


矢継ぎ早の質問に一々頷いて俺は肯定する。


「隣人と言ってもお互いに憶えていないんだけどね。でも彼と話していたら、懐かしい感じはしたよ」

「ふーん。花畑が言うには、家に帰ったら前触れもなしにお前がいたと言っていたけど」


そうなんだよな、それでイチゴくんをめちゃくちゃ驚かせちまったんだよな。

俺自身もお邪魔するつもりはなかったんだ。


ちょっとだけ花畑さんとお話できたら、そう思っただけだから。冷麺は美味しかったな。


「でも、なんであいつの家に?」


アジくんの問い掛けに、「思い出の旅をしたくてさ」俺は曖昧に笑った。

そう、俺はただ思い出に浸りたかっただけなんだ。

あのプチ一人旅は高所恐怖症を治すための、思い出の旅。


なんてことのない、けど懐かしくも優しい思い出の旅だった。


結果的にイチゴくんとまた仲良くできた。今度こそイチゴくんと記憶に残る思い出を作っていきたい。


そして、早く高所恐怖症、治さないと。

このままじゃ駄目だ。絶対に、絶対にさ。


なーんて決意を胸に刻む俺の思いとは相反して、日に日に高所恐怖症は酷くなっていた。


苦になっている階段は普段お松さんに頼って……いるわけじゃなく、フライト兄弟や先輩と一緒に階段を上り下りしてもらっているし、廊下を歩く時は極力壁際を歩くし、教室にいる時も窓の方には絶対に目を向けない。


それらを抜かせば生活に支障はきたしていない。取り敢えずは。


唯一俺の頭を悩ませているのは自分の家の階段なんだ。


親に心配されたくないから、高所恐怖症が酷くなったなんて言えない(言ったら引越しを考え始めてくれるだろうけど、お金掛かるじゃん!)。


どう親にばれないよう階段を上り下りするかが決め手になるんだけど、狭い家で毎日顔を合わせているんだ。ばれないようにするってのは至難の業。


今の俺は窓辺に立つことも困難だから、もしもうっかり恐怖心を表に出したら親に勘付かれてしまうかもしれない。


こんな状態に陥っているなんて、絶対に親にだけは知られたくない。本当に知られたくない。


家での俺は必死に欺こうと躍起になっている。

あの人達に心配だけはさせたくないんだ。


でもあの人達は察しが良いからな。

いつまであの人達を欺き通すことができるのか……嗚呼、早く高所恐怖症を治してしまいたい。


そうだよ、早く高所恐怖症を治して、先輩と観覧車に乗ろう。


告白だってしたい。


俺は攻め困ったさんの先輩が好きなんだ。


観覧車に乗った時の彼女の喜ぶ顔を、誰よりも近くで見たい。