「困ったなぁ」
苦笑する俺を意味深に見つめていた先輩は、たっぷり間を置いて「まあとにかくだ」話題を明るい方向へ持ち直す。
「これでは生活に支障が出るだろう? 現状を見る限り、階段で相当苦労しているみたいだからな。何かあればすぐにでも駆けつけたいが、あたしにも限度がある。だから空、何か遭ったらばあやの名を呼べ」
「え、お松さんの名前っすか?」
そこで何故にお松さん?
「そうだ。ばあやはあたしが学院にいる間、いつでもどこでもどんな時でも空を見張っておく……ゴッホン。空を見守っておくよう頼んでいるんだ。
どうしても階段の上り下りで支障が出るようだったら、ばあやの名前を呼ぶがいい。すぐに飛んで来るから」
さらっと言ってくれる彼女だけど、え、いつでもどこでもどんな時でも俺を見守って(見張って)下さっているんっすか、お松さん。それはそれで怖いんだけど。
世間ではそれをストーカー行為と呼ぶのでは。
「大丈夫っすよ。そこまでしてくれなくても」
遠慮する俺に「アホか!」先輩が怒声を上げた。
「あんたに何か遭ってからでは遅いのだぞ! 例えば階段を下る途中、恐怖心からその場で佇んでしまうとしよう。
その時の空の顔は、きっと半泣きで欲情を煽る表情だと思う。そんな顔を他の女が見て押し倒そうとしてきたらどうする! あんたのお初はあたしと決まっているのだぞ!」
「安心して下さい。学内の隅々を探しても先輩の妄想するような危険人物はいません」
寧ろいっちゃん危険人物は貴方っす、鈴理先輩。
引き攣り笑いを零す俺に「遠慮せず呼べよ」お松さんを頼るよう強要してくる。
んー、此処まで言ってくれているんだし、本当の本当にやばくなって、動けなくなったらお松さんを頼ろうかな。
ただ一つ疑問が。
すぐに来てくれるってお松さんって、いつも何処にいるのだろう?
疑問を投げ付けたかったけれど、返答が怖かったからそっとしておく。
俺の心配をしてくれているのか、先輩は教室までついて来てくれる。
何から何まで朝から申し訳ない気持ちで一杯になるんだけど、
「この恩は体で返せばいいから」
しっかりと下心発言をしてくれたおかげで感謝心が霧散。
コノヤロウ、それが目的かよー、心の中で盛大にツッコんだ。あくまで心の中で。



