「お、起こさせて下さい」

あたふたする俺に、「ではご要望に応えて」意外にもすんなり体を起こしっ、ちゅっ。


……駄目だ、俺は羞恥のあまり溶ける。溶けちまう。


体は起こされたものの、触れるだけのキスをされて俺は身悶え。その場で蹲ってしまう始末。

いつもはもーっと濃厚なことされているけど、朝から攻められてみ? ぜーって俺みたいになるから。


敢えて周囲の目は見ず、先輩の目も見ず(見られるもんか!)、立ち上がって俺は改めておはようございますっと小声で挨拶。

もはや顔が赤一色だったけど、気にすることなかれ。


こんなんで気にしてたら身が持たない。ついでに心臓も持たない。


にやにや、あくどいお顔を作る先輩は挨拶を返して腕を引いてくる。

昇降口に行こうってことだろう。


従順に俺は彼女の隣を歩きつつ、話題を土曜の夜に切り替えた。


ちょっと決まり悪くなりながら、「土曜はすんません」詫びを口にする。


「突然夜分遅くに電話してしまって、ちょっちおセンチになっていたみたいで」
 

よくよく考えると非常識だったよな。あの電話。

せめて21時台に電話すりゃあ良かったものを。23時手前にお電話とか。


断りのメールを入れてから電話すれば良かったとか、配慮に欠けるとか、色々悶々しちまう。


「馬鹿だな」


先輩は気にしているわけないだろ、と一笑。

寧ろ嬉しかった、付け加えて本当に大丈夫だったのかと憂慮を向けてくれる。

俺は頷いてみせた。大丈夫も何も元気ハツラツだ。


「おかげ様で今は超元気っす。遅い五月病でもきてたんっすかね」
 

笑声交じりに靴を履き替え、颯爽と俺は彼女と教室に向かうため階段に差し掛かる。

だけど階段を前に俺は足を止めてしまった。
 

なに、この階段。

土曜日まで感じなかったけどめちゃくちゃ高くね? え、これを平然と上っていたの? うそん、マジで?


ドッと冷汗が出る俺は今朝のことを振り返る。

そういえば今日の家を出る際、めちゃくちゃ会談に手間取ったよな。


マジ下りるだけで半泣きになってやんの。

下りるだけで五分は掛かってやんの。ダッセェとか思うんだけど、真面目な話、どうしよう、上れない。無理。怖い。逃げたい!