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「あら、おかえりなさい空さん。遊びに行っていたの?」
家に帰ると、母さんが台所に立っていた。夕飯の仕度をしているらしい。
トントントンとリズミカルに奏でていた包丁の音を止めて、玄関で靴を脱ぐ俺に声を掛けてくる。
「ただいま」
俺は笑みを浮かべながら挨拶をして、ちょっと遠出して遊んできたと返事する。
流し台に立って手を洗いつつ、切られた野菜を目にやって俺から話題を切り出す。
「着替えたら俺も手伝うから。ちょっと待ってて」
「そう? じゃあ、私は味噌をといておくから着替えたら、和え物を作ってて」
分かった、頷いてタオルで手を拭くと寝室に向かってブレザーを脱ぐと、ハンガーにそれを掛ける。
皺の寄らないよう気を遣いながらハンガー掛けにハンガーを戻して、カッターシャツのボタンを一つひとつ外した。
随分歩き回ったから汗掻いている。洗濯しないとな。
俺はぞんざいな手つきでシャツを机に放った。
と、シャツの向こうに見える写真立てに気付く。
目を細め、ぎこちない手つきで写真立てに手を伸ばした。手に取ったのは実親の写真。
父さん……母さん……。
「空さん、今日は誰と遊んできたの?」
我に返った俺は、「アジくんとだよ」写真立てを定位置に戻して嘘をついた。
「楽しかった?」
母さんは味噌をときながら俺に感想を求めてくる。
「うん。アジくんの地元に行って来たんだ」
俺はうそぶいてズボンを脱ぐとジャージを手にして着用。
ズボンもハンガーに掛けてしまい、シャツの袖に腕を通しながら母さんの手伝いをするため、俺は台所へと向かった。
再度手を洗い、和え物作りに精を出す。
ただ食材を酢で和えるだけの簡単な作業だ。
和え物を作りながら、俺は母さんと他愛もない会話を交わしていた。
出来上がった頃合を見計らうように父さんが帰宅したから、三人揃っての夕飯。
これまた他愛もない談笑を交わしつつテレビを観て、家族団らんの時間を楽しんだ。
その後、俺は机に向かって勉強、父さんは母さんと晩酌をして時間を過ごしていた。
「勉強もほどほどにな」
父さんが途中乱戦してきたもんだから、「特待生だし」と俺は自慢げに返す。



