目尻を下げるイチゴくんにお礼を言って、俺はアパートを後にした。
このまま楽しい思い出に浸って帰宅したいけど、俺の当初の目的は高所恐怖症の原因探し。
イチゴくんとの時間が楽しくて考えないようにしていたけど、俺の高所恐怖症と両親の交通事故、ジャングルジムの大怪我は繋がっている。一貫性がある。
花畑さん曰く、実親の交通事故は俺の目の前で起きているらしい。
ということは、俺は目の前で両親の亡くしたということになる。
それに花畑さんは言っていた。
両親は俺と約束と交わしていた、と。
約束? なんだそれ。
俺は一抹も憶えていないぞ。
ショックで忘れちまっているのか? 幼少の記憶とはいえ大事な思い出なのに、俺はなんで。
蘇ってくる動揺を胸に抱えつつ、俺は暮れた道を歩く。
外灯のおかげで幾分視界の利く夜道、大きなウェーブをえがいている上り坂手前で右折し、イチゴくんの言われたとおり真っ直ぐ歩く。
古びた電柱を数本横切り、破れ廃れたポスターの壁を通り過ぎて、目的地に辿り着く。
その公園はとてもひっそりとしていて、閑寂という単語が似つかわしいであろう空気を醸し出している。
遊具も多くはなく、小さな滑り台と砂場。タイヤの渡り道にペンキが剥げ掛けているシーソー。木造のベンチ。
柵向こうに、殆ど使われていないであろう電話ボックスも置いてあった。
公園の敷地に足を踏み込んだ俺は、静まり返っている空気のせいなのか、それとも別の理由があるのか、鼓動がバックバクと鳴り響いていた。
口内の水分が急激に失われる中、どうにか体に鞭を打って公園の奥へ奥へと進む。
見慣れない公園なのに、どこか懐かしい公園、俺の体がでかくなったせいか何もかもが小さく見える公園。
ぼぉっと外灯が淡く光る下で俺は息を詰めていた。
つくねんと立っている自分が今、何処にいるのか分からない。
錯覚に陥るほど俺は動揺していた。
耳元で鳴り響いている鼓動を抑える術もなく、ただただ重い足取りで砂場やシーソー、タイヤの渡り道を歩いて、吸い込まれるようにひとつの遊具へと足を向けた。
「ジャングルジムだ」
高さのないジャングルジムは、青と黄色で塗装されていたらしい。
らしいというのは、推測することしかできないからだ。
大部分の色が剥げちまっている。



