前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―



戦慄が走る。

あ、アポなしに上がった客人に飴玉を下さるだなんて。


しかも、瓶を傾けて俺の手に平に五個も六個も七個もっ、どうしよう、この人めっちゃ良い人だ。


「あ、あのっ、イチゴくんって呼んでも? アメくんでもいいけど、ここはやっぱりイチゴくんで」

「ははっ、本多の言うとおりだ。餌付けしやすいな、空って。いいよ、イチゴくんって呼びな。本多に今度自慢してやるから。あ、俺もあいつのことアジって呼ぼう」


きっと驚くだろうな、悪戯っぽく笑う翼くん改めイチゴくんはメアド教えてよ、と積極的に話し掛けてくる。


俺は笑顔で頷いた。

携帯こそ先輩に借りているけど、先輩は俺の友達のアドレスも気軽に入れていいって言ってくれた。


ただし女の場合は自分の知る奴限定、と条件を付けて。


だから俺の携帯には鈴理先輩の他に、宇津木先輩や川島先輩、大雅先輩、フライト兄弟のメアドが入っている。


ちなみに全部鈴理先輩が入れてくれたから、メアドの交換がいっちょん分からん。これっぽっちも分からん。


機械音痴の俺はイチゴくんに助けを求めた。


「どれ?」


イチゴくんは俺のガラケーを取って操作。

あっという間に赤外線ってヤツでメアドを交換してくれた。


凄いな、感心してるとイチゴくんが俺の頭を小突いて、


「これくらい覚えろって」


笑声を上げた。

機械音痴なんだからしょうがない、俺は笑いを返す。


こうしてイチゴくんと話しているとなんだか懐かしい気分になってきた。

昔の記憶が疼いてるのかも。

そうだとしたら俺はイチゴくんと仲が良かったんだろうな。


「ふふっ、もう仲良くなって」


花畑さんが微笑ましそうに笑い、冷麺を持って戻って来る。



お昼ご飯を食べてはきたけど、折角作ってもらったんでイチゴくんといただきます。ありがたーく冷麺をご馳走になった。


意外とお腹に余裕もあった俺は、イチゴくんとほぼ同じ頃にごちそうさま。
 

さてと、ご馳走になったし、これからどうしよう。


今から公園にでも行ってみようかな。

イチゴくんとのほほんしちまったけど、当初の目的は両親の事故を知るために来たわけだし。


高所恐怖症の本当の原因が見えてきそうな気もするんだ。


俺の高所恐怖症、交通事故、そしてジャングルジム事故は一貫性がある。


「なあ空。折角だし、ちょっと出掛けようぜ」

「え? 出掛けるって何処に?」


「近所にめっちゃ良いCDショップがあってさ。俺、飯食ったら買い物に行こうって思って。あ、待ってくれな。今、ブレザー着るから。空も制服だし、俺も制服でいいや。うっし、行こうぜ空」


「あ、ちょ、イチゴくん!」



腰を上げるイチゴくんは、颯爽と通学鞄を肩に掛けて無理やり俺を立たせる。


んでもって鞄を持たせて、「行こうぜ!」腕を掴んで引っ張ってきた。


えええっ、俺の意見は無視ですかっ、ちょイチゴくん!

君ってそんなに一直線タイプ?


あ、でも昔もこうしてイチゴくんに引き摺られていたような気がする。てか、あ゛、まだ花畑さんにごちそうさまのお礼もっ、


「花畑さんごちそうさまでした! 冷麺美味しかったっす!」


玄関先で俺は花畑さんにお礼を言う。


目尻を下げる花畑さんは、またいらっしゃいと綻んでくれた。

その笑顔が、これまた懐かしく思えたのは俺の記憶が疼いているせいだろうか?