今まで逸らされていた視線がきょろっと此方に向く。
まじまじまじまじまじまじ、と人を観察してくる翼さんは一呼吸置いて俺を指さした。
「………………もしかしてお前。本多照彦って男と知り合いか?」
「あれ、アジくんを知っているんですか? 奇遇ですね」
へらへらっと笑った直後、
「お前じゃねえかその苦労人は!」
盛大にツッコまれた。
驚く俺を余所に、「なんだよ本多の友達か」一変して翼さんは表情が緩和した。
つられて俺も表情が緩和する。こんな偶然もあるもんなんだな、さっきのダンマリはどこへやら翼さんは饒舌になった。
初対面だから警戒されていたみたいだ。
会話の契機を掴んだから、すっごく気さくになってくれる。
「聞いているんだぜ、本多から色々とさ。あ、俺、本多と同じ小中学校に通っていたんだ。空も隣に住んでいたら、一緒の学校に通っていただろうぜ」
「翼さん、アジくんはいつも俺のことを?」
「翼でいいって。敬語もなしなし」
じゃあ呼び方は翼くんにしよう。そうしよう。
「話は聞いちゃっているぞ。お前、彼女とスッゲェ噂になっているんだって? 公開ちゅーとかするんだろ?」
ぶはっ!
残り少ない珈琲を啜っていた俺は盛大に噴き出して咽た。
あ、アジくん、翼くんになんてことを話して。
ゴホゴホと咽る俺に、「本当なんだ」にやりと翼くん。
オープンスケベめとかいたらん称号を頂いてしまった。
俺は必死にチガウチガウと首を横に振って、赤面しながらボソッと反論。
「か、彼女が仕掛けてくるんだって。俺の彼女、すっごく雄々しくて」
「それも聞いてる聞いてる。姫様抱っことか普通にしてくるんだろ? すっごいな、お前の彼女。んでもって美人さんなんだって? 嬉しい限りじゃん」
翼くんに揶揄されるけど、「嬉しい限り……」俺は思い出のページを捲る。
嬉しいどころか、あーんなことやこーんなことをしようとして、毎日のよう逃げ回った俺。
女装をされそうになったり、危うく食われそうになったり、小説で二次創作されたり。
ははっ、嬉しい限りですね。泣けてきます、ええほんとにもう、悲しくて。
「それから」
翼くんは思い立ったように台所へ。クエッションマークを浮かべる俺の下に戻って来た翼くんは、「やるよ」苺の飴玉の入った瓶を差し出してきた。



