まったく記憶の無い人なんだけど、おばちゃんは興奮気味に俺の身形を見るや否や、
「んまあこの制服。エレガンス学院じゃない、もしかしてそこに通っているの? 頭いいわね。うちの息子なんて勉強をろくすっぽうしないから……あ、息子のこと憶えている? よく一緒に遊んだのよ」
矢継ぎ早に言われて俺は苦笑い。おばちゃんパワーすげぇ。
「今、元気に暮らしている? あんなことがあって音沙汰が無かったから……空ちゃん、元気?」
「すっごく元気ですよ。あの、えっと、すみません。宜しければお話、聞かせてもらってもいいでしょうか?」
目を丸くするおばちゃんに俺は頼み込むことにした。
“あんなことがあって”の話を詳しく聞かせて欲しい、と。
おばちゃんの名前は花畑(はなはた)さんと言うらしい。
名前を聞いても、申し訳ないことに憶えがなかった。
正直に相手に詫びれば、「いいのよ」まだ小さかったものね、と花畑さん。
いきなりの申し出も快く聞き入れてくれ、家の中に招いてくれた。
花畑さんは俺に珈琲を淹れてくれながら、実親の話をしてくれる。
曰く、花畑さんは由梨絵母さんと仲が良かったらしい。
引っ越してきたばかりの母さんに地元を案内したそうな。
とても馬が合う人だった、哀しそうに笑い、花畑さんはテーブルに着いている俺の前に珈琲を置く。
「頂きます」
会釈してカップを受け取る俺は、シュガーの封を切って躊躇なく砂糖を投与した。
砂糖はあっという間に珈琲と融解してしまう。
「空ちゃんは今、どうしているのかしら? 弟夫婦に引き取られたって聞いたんだけれど」
「あ、はい。両親と近隣町で仲良く暮らしています。二人とも、俺のことを本当の子供のように可愛がって下さって」
「そうなの」花畑さんは微笑を向けて、俺のためにクッキーを出してくれる。
ちょ、こんなに良くしてもらうなんて。
アポなしの招かざる客人なのに。このクッキー高そうだし。
「それで、空ちゃん。此処に来たっていうのは……、ご両親のことで?」
「はい。その、俺……ちょっと諸事情で両親が亡くなった当時を知りたいんです。あんまり記憶になくって。両親には聞き辛いですし。もし知っていたら、教えて下さりませんか? なるべく真実を知りたいんで、俺に配慮する必要は無いです」



