「奪ったらいいだろう」
憮然と言う先輩に、「出来たら苦労しねぇよ」大雅先輩は苦笑を漏らしてカツとご飯を掻き込んだ。
「それに、あいつを困らせたくねぇよ」
取って付けた弁解に、鈴理先輩はちょっと間を置いて「あんたらしくないな」苦笑いを返した。
「かもな」
大雅先輩は肩を竦める。
なんか聞いちゃいけない会話を耳にして居た堪れなくなったんだけど。
「んでもってあいつは、あれだ。兄貴だって苦労する趣味の持ち主だから……あー…あの趣味は俺も理解しかねる」
「宇津木先輩って、変な趣味をお持ちなんっすか?」
「なんだ知らないのか?」
大雅先輩が意外だな、と俺を見つめてくる。
「空は知らなかったな」
鈴理先輩も俺を見てきて、まあ空なら言っても大丈夫だろ、とこっそり宇津木先輩の素性の一部を教えてくれる。
「あいつは腐女子なんだ、空」
……ふじょし?
目をパチクリさせる俺は「なんですかそれ?」右に左に首を傾げる。
無知な俺に先輩は懇切丁寧に教えてくれた。
曰く、宇津木先輩は隠れ腐女子でボーイズラブというジャンルが大好きらしい。
ボーイズラブってのは男同士でイチャコラする恋愛ジャンルだとか。
そういや先輩に一度教えてもらったことがあるけど、でも、それが苦労する趣味に繋がるんだろうか?
だって人の趣味なんて人それぞれじゃん。
他者がどうこう言う筋合いなんてないと思うんだけど。
宇津木先輩がそういう趣味を持っても俺は、なんとも思わないよ。
率直な疑問に、「何も知らない奴はいいよな」大雅先輩はガックシ項垂れた。
「テメェ、知らないだろ。あいつに妄想されてる哀れな男共の話を。俺や兄は勿論、テメェも被害者なんだぞ」
「へ? ……え゛、俺も妄想されているんっすか?」
だって俺、既に鈴理先輩との妄想で引っ張りだこなんだけど。
「ふっ、この話は仕舞いしようぜ。俺が泣きたくなる」
くらーいくらーい声で言われたから、俺はコクコクと頷いて話を打ち切ることにした。
詳細を聞きたいような気もしたけど、触らぬ神に祟りなし。俺自身のためにも今の話は無かったことにしよう。そうしよう。



