と、その時、第二の俺がバッカヤロウと本体を罵ってくる。
なあにしているんだド阿呆、しっかりしろ、俺!
お前の身分はなんだ?
たかがスチューデントだろ!
食われちまったら最後、お前は盛大に後悔する。する筈だ!
本体の俺>>けど逃げられねえじゃんかよ。
第二の俺>>諦めるな! お互いの心の準備ができていないんだ。否、俺の心の準備と覚悟できていない。安易なセックスなんて絶対に認められない。結果的に先輩を傷付ける。傷付くのは俺じゃない、彼女なんだ。
本体の俺>>気合でどうにかなるんじゃ。一回くらい。
第二の俺>>アホか、一でも十でもやったら過ちだぞ! 若気の至り? うるせぇ、そんな安易なもんじゃねえぞ。それにな、お前だって無事でいられるかどうか分かんないんだ。忘れたのか、先輩の嗜好を!
心中で二人の俺が葛藤している間も、先輩はキスで草食男子を翻弄させる。
彼女のねだったキスに応えたせいか、濃厚も濃厚で思考回路が一抹も回らない。
第二の俺がヤバいと嘆く中、本体の俺はもはやなすがまま。先輩の行為を受け止めることしかできなかった。
ねっとりしたキスから解放されると、先輩は彷彿している俺に言う。
「ベッドに行こうか、空」
ひゅ、ひゅ、忙しなく呼吸をしつつ視線を持ち上げる。
理性が失いかけていると分かっているみたいで、俺の返事は期待していないようだ。
口端から垂れた唾液を舌で拭い取り、熱のこもった吐息を耳にかけてくる。体が震えた。
「本当に可愛いな空。どれほどこの日を楽しみにしていたか。あんたはどう鳴いてくれるんだろう? ここはあたしの部屋だ。誰にも邪魔されない」
耳にキスをされる。
軽く目を伏せて唇の感触を楽しんだ。
「せん、ぱい。くすぐったい」
「ふふっ、補助奨学生の優等生くんもこんな顔をするのだな。本当にヤラシイ。今夜は色んな事を試したいな。この時のために用意していた道具も向こうにあるし。一夜だけでは足りないかもしれない」
………道具?
第二の俺>>思い出したかバカヤロウ。食われるべからずだぞ!
本体の俺>>おう、思い出したよ。
言い争っていた内なる二人の俺が結論付けた。逃げるべきだと。
うん、忘れていたよ。
先輩は普通のセックスじゃない、アブノーマルなセックスを望んでいたっけ。
縄とか変な薬の入った小瓶とか用意していたっけ。
そして此処は先輩の部屋。
他に何が息を潜めているのか予測不可能だ。
一変して青褪める俺は自分の欲情を振り払い、理性をかき集め、しきりに空笑いを零して小さく首を振った。
嫌だ、俺はまだ死にたくない。
「ん?」先輩は首を傾げてくる。
「なんだ。此処がいいのか? 空は変わった嗜好の持ち主だな。それもまた可愛いが」
先輩だけには死んだって変わった嗜好なんて言われたくない!



