「うむ、ちょっと調子に乗り過ぎたな。空の純情さを考慮して仕掛けるべきだった。いや、焦る姿はとても楽しかったが。赤面する空の顔ほど、そそるものはないしな」
先輩、ちっとも反省していませんね。
こっちたらぁ、許容範囲オーバーでのぼせたっつーのに。あーもう、どうにでもしてくれって気分。
「あれ、先輩まだ髪乾かしてないんっすか?」
俺は先輩の髪が濡れていることに気付く。
頭にタオルはのせてるけど、それだけ。毛先に水滴が付着している。
もう一つ気付く。
先輩の寝巻きが薄紅色のネグリジェじゃあーりませんか。
うそーん、超可愛い寝巻きだけどさ、なんかさ、超焦る俺がいるんだけど。
だって生地も薄いし、なんか露出度高くないっすか? 肩丸見えっすよ。
俺の気のせいっすか? 俺の気のせいなんっすかね?
取り敢えず平常心を装って、「髪乾かしてきて下さい。このままじゃ風邪ひくっす」と促す。
「そうだな、じゃあ少し待ってろ」
先輩はソファーにうちわを置いてドレッサーの下へ。
引き出しからドライヤーを取り出して、スイッチオン。髪を乾かし始める。
ブオオオン、ドライヤーの音を語にするとこんなかんじ。
先輩が髪を乾かしている、その間、だまーってソファーに座り込む俺だけど、なんだろうか、この居心地の悪さは。
なんというか、あれだ、準備段階に入ってるカップルのように思えてならないというか、なんというか。
意識し過ぎ? かもしれないけど、でも、警戒心は抱いておかないといけない空気というか。
甘いんだよ、なんかこの部屋、空気が甘いんだよ。
先輩だってこの空気に気付いていないわけじゃあるまい。
寧ろ作っているのかもしれない。創造主なのかもしれない。
ブオオオン、「……」、ブオオオン、「……」、ブオオオン、「先輩。眩暈、ちょっと治まってきたかもっす」、ブオオオン、「そうか。それは喜ばしいことだ」、ブオオオン、「……」、ブオオオン、「……」
この会話の少なさっ!
俺は異様な緊張に襲われるし、先輩の含みある妖笑は色濃くなっていく一方、確実に階段を上っているぞ!
嗚呼、話題っ! 何か話題はないか! 危なくなってきたぞ、この空気! 無言はアブネェ!



