「な、なんで……よりにもよって一緒に入ろうと思ったんっすか。お、俺、男っすよ? 発情して、お、襲っちまうかも……いや、逆に襲われそうっすけど」
「ふふっ、空の生肌を見たくてな」
うぐっ、またそういうことをっ!
呻く俺に、「それに言ってくれたじゃないか。あたしの心に触れたい」
「だから一緒に入ろうと思ったのだ。風呂の方が何かと語れるだろう?」
そう言う彼女は、「ナニから話そうか」と軽く目を伏せる。
「そうだな。あたしが心の底から空を欲している話でもしようか。なあ、空、知っているか? 男女で性行為の考え方が違うということを」
「な、艶かしい話はっ、此処ではちょっと」
慣れてないんっすけど、言葉が濁っちまうのは先輩がぺらぺら言葉を重ねたせい。
「男は相手にとって初めての男になりたがる。一方で、女は相手にとって最後の女になりたがる。
分かるか? この意味。
男は女に勲章として一刻みしたいんだ。
対して女は男の最後となりたい。つまり、自分を最愛に置いて欲しいということだ。まあ、男の考え方に反感の念を抱く女は多いが、男にとっては結構これが当たり前だったりするらしい。あんたはそうか? 空」
「わ、わかんないっすよ。そんなこと」
経験が無いし、性欲だってそんなに持ったこと無いんだから。
ぎこちなく返せば先輩はそうかと相槌を打って、自分はどちらにも賛同できると答えた。
男の考えにも賛同できるし、女の考え方にも賛同できる、どちらかといえば、さてどちらだろう。
自問自答する先輩は、形の良い唇で孤を描いた。
「両方賛同できるからこそ、空に対しては両方使えるというわけだ」
「どういう……」
骨張った人差し指が俺の唇に押し当てられた。
「つまり空にとってあたしが最初の相手であり、最後の相手であることを望んでいるということだ」
ピチャンと聞こえてくる水音。
天井に付着した水蒸気が飽和状態を通り越して、水滴と化し、湯船に落ちたらしい。
「空、分かるか?」
顔を覗き込まれて、俺は軽く視線を逸らす。
これはもしかして今夜のお誘いだろうか。
いや絶対にそうだろう。
空気を読めない俺じゃないから、今の空気をズバリ説明する事ができる。
この空気は艶かしい!
間接的に今夜楽しみにしてます宣言だっ!
じょ、冗談じゃないぞ。
こんなところで流されたら、今まで何のために逃げてきたのか。
流されるなよ、俺、流されちゃ、おしまいだぞ。
「そうやって恥らっているあんたもそそる」
駄目だ駄目だ駄目だっ、流されたらおしまっ……ザッバァーン!
水飛沫が浴槽に上がった。なんでか?
答え、先輩のせい。
葛藤している俺に追い討ちを掛けるように、飛びついて俺もろとも浴槽に沈んできたんだ。
すぐに浮上した俺達、先輩は体を洗うと湯船から上がり、俺は盛大に咽ていた。
ゼェゼェゲホゲホ咽ながら俺はアリエナイと先輩にそっぽ向きながら悪態を付く。
先輩はケラケラ笑うけど、マジでありえないんですけど。
ほんっと……ありえねぇ……。
お湯の中でキスされるとか、あーっ、くそっ……頭がくらくらしてきた。
焦り過ぎ、興奮し過ぎ、騒ぎ過ぎだろ俺。
そしてこれは、あれだ、風呂でよくある……のぼせたってヤツだ。
あーっ……ちょ、やっべ。
きてる。結構きてる。
頭が……ぼーっと……まだレベル的に自力で湯船に上がれるけど、これはマジで……マジでやばい。
ということで、俺は肉食獣に伝えたのだった。
「先輩、俺、先に上がるっす。シニソーっす。え? 駄目? いやそんな殺生な。だって俺、完全にのぼせました……あーあ、つらっ」



