前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―



目を輝かせてくるお松さんに俺は引き攣り笑い。アータの子供になった覚えはないんですけど。

もしかして、最近ひしひしと感じていた視線って、お松さんのだったんじゃ。

うっわぁ学校で下手なことできないぞ。

見張られている俺って一体……はっ、まさか濃厚なキスをされていたところも、この人に始終見られていたんじゃ。 


だとしたら十中八九、非は鈴理先輩にあると此処に記しておく。


嗚呼、本当に見られていたのかな? そうだとしたらスンゲェ恥ずかしいんだけど。


悶絶する俺に対し、鈴理先輩はお松さんに俺の弁当と自分のランチセットを交互に指差して何やら耳打ち。


「かしこまりました」


そういうや否やお松さんは弁当とランチセットが乗っかっているトレイを同時に宙に放り投げた。

何をするのかと見上げた瞬間、お松さん、妙な奇声を上げながら飛び上がって弁当と定食に向かって、人間業と思えないスピードで何か作業をしている。

奇声を上げながらの作業は非常に怖い。

存在が既に妖怪っぽいのに(失礼なものの言い方だけど)、あの目の据わり方。恐怖心を煽られる。


しかも手さばきが早いから、一体全体何をしているのかも分からない。


絶句している俺を余所に、音なく可憐に着地したお松さんは弁当とトレイを見事にキャッチ。そのままトレイを先輩に、弁当を俺に返してくれた。

絶句していた俺は更に絶句することになる。

なんと、俺の弁当箱の中に先輩のオムライスが半分に分けられたい状態で入っていたのだ。

うそだろ? パンやサラダやヨーグルトまで。

勿論、俺の家のもやし炒めまで入っている。綺麗に詰め込まれている。

どうやって分けたの?

短時間で作業をこなせたお松さんって、本当に妖怪ですか? 今のは妖術の一種か何かですか?


「見事だ。ご苦労」


鈴理先輩はお松さんに礼を言う。


「恐縮でございます」


お松さんは頭を下げると、全開になっていた窓に足先を向け、窓枠を跨いで外へと出て行ってしまった。

呆然とやり取りを見送っていた俺はようやく我に返り、弁当の中身を指差して「これって」先輩に尋ねる。

俺を気遣って半分ずつにしてくれたのかな。先輩のトレイには俺の家のもやし炒めが皿にのっている。

だったら申し訳ないんだけど。

眉をハの字に下げる俺に対し、鈴理先輩は気にするなと微笑を向けてきた。