痛いほど腕を掴んでくる先輩の手が震えていることに気付いたのは、暫し回廊を歩いてからのこと。
無言で歩く彼女の後姿を見ていた俺だったけど、そっと先輩の名前を啄ばむ。
すると鈴理先輩は足を止めて、
「すまないな」
振り返る事無く俺に謝罪してきた。その謝罪は上擦っていた。
「遊びなどと言われたくなかったから、二週間ほど前から、そう空と約束を取り付けた日から毎日のように両親や姉妹に話していたんだ。彼氏のあんたのことを。毎日まいにち、好きなことをあたしなりに必死になって話していたんだが。
結局、理解してくれたのは姉妹のみ。両親には届かなかった。信じてもらえなかったようだ。
日頃の行いが祟っているのかもしれん。期待されていないからこうなる。分かってはいたんだ。
だが、あんたには迷惑を掛けてしまったな。不快な思いをさせてしまった。すまない」
「先輩……」
「だがな、空。あたしは、一度だって、いちどだって」
一向に振り返ってくれない先輩は、気丈にこの話は終わりだと言い放った。
上擦った声音のままで。
俺は軽く目を伏せた後、歩みを再開しようとする先輩の手を握り返して制した。
「なんだ?」
まだ振り返らない先輩に、俺は優しく伝えた。
「先輩はいつだって俺に対して真剣だった。それは俺が一番知っています。俺を好きだと、こんなにも好きだと言ってくれている。俺にはちゃんと伝わってます。
理由を付けて逃げてバッカだった俺に好きって言ってくれた貴方の気持ちは、俺に届いてます」
「………」
「届いているから、誘ったんっすよ。冬の天の川、一緒に見に行きましょうって。届いているから、俺は先輩に男ポジションを譲っていいるんっすよ。届いてるから、俺は今、貴方の傍にいるんです。気持ちだって傾きかけている。貴方に落ちようとしている、俺がいるんっす」
ねえ、先輩。
貴方が俺に教えてくれた。
周囲の目なんて微々たるものだと。
身分バッカ気にする俺に、浮気心を持つなと言って気にするなと笑ってくれた。
だから俺も言いたい。
誰が何と言おうと、貴方の気持ちは俺に届いている。
貴方が遊びで俺に近付いた。
最初こそ、そう思っていた時期があった。
身分身形その他諸々のことを気にしていた俺だ。
物珍しさに近付いてきたのかと思っていた時期があった。



