俺は愛想笑いを浮かべて頬を掻いてもう一度弁当に目を落とす。
本日の豊福空の弁当の中身。もやし炒めの詰め合わせ。味付けは塩コショウ。もやし以外におかずは梅干……以上。
いつもだったら白飯が一面に敷き詰められていたり、真っ二つに切られた食パン一枚とラップに包まれたバターが入っていたり、キャベツが人参の炒め物が弁当箱の面積を占めているんだけどな。
今日に限ってもやし炒めの詰め合わせ。
しかも母さん。
俺に気を遣っているのか、もやし炒めだけじゃ可哀想だと同情し、詰め込んだもやしの真ん中に梅干を埋め込んでいる。
少しでも見栄えを良くしようとしてくれている。
日の丸弁当だと思って食えと懇願のメッセージが込められているように見えた。
これで腹の足しになるかと言ったら、食わないよりかはマシだろ。
いいか、食えることに意味がある。有り難いと思わないと罰が当たるんだぞ。
「先輩知っています? もやしってどんなに不況の波を受けても価格が安定した食材なんっすよ。寧ろ安く手に入るから、不況になるともやしブームが起きるそうです。もやしダイエットなんてものがテレビ特集でありました。
それでは頂きます。あ、気にしないで食って下さい。俺の弁当はいつもこんなもんですからッ、て、あ、先輩!」
不意に前方から伸びた手が俺の弁当を取り上げていく。
「返して下さい」
慌てる俺に対し、鈴理先輩は弁当を自分の前に置くとおもむろに手を叩いた。
すると窓の向こうからヌヌッ……と老婆が現れる。
茂みに隠れていたのか、頭には枝やら葉っぱやらは沢山付いている。
一瞬、妖怪が現れたかと思ったんだけど。
驚く俺に対し、鈴理先輩はお婆さんを紹介してくれる。
「ばあやだ。あたしの教育係をしている。呼べばいつでも何処でもやって来てくれる頼もしい奴だ。口煩くもあるがな」
「お嬢さま。そのようなご紹介はあんまりでございます。わたくしはいつでも何処でもお嬢さまのためを思って奔走しているのでございます」
「分かっているよ。あんたの功績には頭が下がるばかりだ」
「なら宜しいのですが。空さま、初めまして。ばあやのこと深堀(ふかぼり) お松(まつ)と申します。以後、お見知り置き下さいまし。
お嬢さまの命により、ばあやはいつでも貴方さまを見守っております。それはもう我が子のように」



