前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―


良かった、ちょい安心。

俺って昼ドラの見過ぎだよな。

金持ちが意地悪とか、そういった固定観念は捨てるべきだ。ホッと胸を撫で下ろして、俺も挨拶を返す。お邪魔しています、と。


ご両親は俺に笑みを向けた後、先輩のお父さんが先輩に話を振った。


「彼が鈴理のボーイフレンドだね。彼にはご迷惑を掛けないように。それと、遊びもほどほどにな」

「お、お父さま。鈴理は本気で彼とお付き合いしていると仰られていましたよ。私、咲子はしかと耳にしておりました」


……あり?


「そうよ。鈴理。何事も程ほどにね」

「……お母さま。鈴ちゃん、あんなに話してたじゃんか」

「毎日話されていたのに、その言い草はあまりですよ」


俺と鈴理先輩の関係、ご両親の中じゃ遊びになっているのか?


あれれ? ボーイフレンドと言われているし。

彼氏とは思われてないのか? それとも先輩が関係を話してなかったり?

目を点にする俺の隣で椅子の引く音が聞こえたのはこの直後のこと。


犯人は勿論、鈴理先輩。


「ボーイフレンドではなく彼氏です」


素っ気無く返す彼女は、俺の腕を掴んで強く引いてきた。


「父さまや母さまに何度も話したのですが、やはり記憶にないようですね。ではもう一度申します。あたしは真剣に彼とお付き合いしております。なので、遊びという発言は撤回して頂きたいです。あたしも、彼も、真剣なのですから。

――分かっていました。あたしの話に興味のないことくらい、分かっていましたよ。ですが今の発言は我慢なりません。あたしに対してでなく彼にも失礼なのですから」


そのまま歩き出すもんだから、俺は椅子から転げ落ちそうになる。


どうにか体勢は整えたけど、先輩は家族に見向きもせずさっさと歩き出す。


ということは、俺も歩みを開始しなければならなくなるということで。


「す、鈴理。ちょっと待って」


先輩のお母さんの声に反応しない。

彼女は俺の腕を強く掴んだまま、扉を勢い良く開けて逃げるようにダイニングルームから出てしまう。


姉妹の呼び止める声にも、ご両親の声にも反応しない先輩は、ただただ俺の腕を逃がさぬよう掴んだまま、さっさと早足で回廊を突き進んでいく。