前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―




だって、此処にはお箸がない。

ナイフとフォーク、それにスプーンくらいしかないんだ。


俺はお箸で食べたいんだけど。

一番食べ易いから。


取り敢えずパンを千切って口には入れているけど(パンめっちゃうまぁああ!)、どうしようかな。


焼き魚に皆、ナイフとフォークを使っているし。


なんで焼き魚にナイフとフォークを使うんだろう? 焼き魚といえばお箸じゃね?


「ふふっ、空。ムニエルを切ってやるから皿を貸せ」


俺の様子を見た先輩が笑いながら、皿を寄越すように言ってきた。


むにえる? どれのことだ?


目をパチクリしてむにえると呼ばれた料理を探していると、「これだ」そう言って焼き魚の載った皿を取っていく。


ええっ、名前があるんっすか? むにえるって言うんっすか?


「適度には切ってやるが、どれほどの大きさが良いか要望はあるか?」

「え? あ、なんかすみません。こういうの、慣れてなくって。えーっと、大きさは、そうっすね……十等分、いや十五等分……うーん二十等分くらいでお願いしますっす」


先輩が固まる。

あり? 我が儘言い過ぎたか?


「……空、それでは一口サイズになるぞ?」

「それでいいんっすよ。だって、小さく切った方が口に運ぶ回数が増えます。ということは、沢山食べた気がするじゃないっすか! 俺、いつもご馳走の時はそうしているんっすよ。特にハンバーグとか、滅多に食べられないから小さく切って沢山食べた気にするんです」


同じ量でも沢山食べた気がするなんて、幸せな食べ方でしょう?


満面の笑顔で言えば、「お前という奴は……」じわっと涙目になる先輩が、大きくムニエルをナイフで切り始めた。

「おかわりは沢山あるから、どんどん食え。遠慮はするな。後ほどデザートも出るんだ。存分に食え」

「え、でも」

「頼むからこれ以上、切ない気持ちにさせるな。あんた、かなり幸せそうに言ってるが、聞いているこっちはすこぶる切ない。切ないぞ」

やっぱり婿養子として取るか、取るしかないか。

ブツブツと独り言を呟いている先輩は、ムニエルを切り終わると皿を返してくる。


大きく切られたムニエルに目を落としていると、「絶対に遠慮はするな」しっかりと先輩が釘を刺してきた。