前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―



満面の笑顔になって約束だぞ、やや声音を張って俺の鼻先を指で弾く。

鼻先を擦る俺に絶対だからな、先輩は念を押してきた。


「あたしを誘ったんだ。責任を持って約束を果たせ。この冬はあたしと共に天の川観測だ。んー、折角なら泊まりで行きたいな。山地に赴き温泉に入るのも良い。天の川を見た後、風呂に入るんだ。素敵ではないか?」


「そうっすね。あ、そしたら本格的にバイトを探さないと旅費が」

「安心しろ。あたしの家は幾つも別荘を持っているから」


旅費の心配は要らない、だから約束は守れよ。


先輩の念の押しように苦笑しながら、俺は頷いた。


「約束です。一緒に天の川を見ましょう、先輩も守って下さいよ」


俺の返答に満足気の彼女は、ホックホク顔で俺の腕を引き、「さあメシだ!」大股で歩みを再開する。

ご機嫌に回廊を歩く背の小さな彼女を見下ろして、俺は目を細めた。


(先輩……もしかして今の関係に不安だったりするのかな。押せ押せ攻め攻めだけど、俺がはっきり好意を示さないから、だから)


いやそれだけじゃない。


先輩は明らかにおセンチになっていた。


俺のことというよりも、自分の取り巻く環境に憂いを抱いてるような、そんな、果敢ない姿を垣間見せていた気がする。


大雅先輩は言っていた。


『鈴理が執拗にお前に触れたがるのは、お前がそんだけ好きってことだ。触れて触れてふれて、もっとお前を知りたいんだろうぜ?』


――先輩は俺じゃないと駄目だと言っていた。惚れ込んでくれている。



『お前に触れて触れてふれて、その孤独を拭おうとしてるのかもしれない。よく言うだろ? 人間は独りになると、愛情を求めちまうって。大好きなお前にガオーッすることで、孤独を霧散しようとしてるのかもしれない。同時にお前の心が欲しいんだろうな』


――彼女は体に触れたいと物申している。


触れることで心も欲してくれる彼女と同じように、俺も触れたい気がした。




『片隅で孤独を拭おうとしている。少なくとも俺にはそう思える』




――体じゃなく、心そのものに。





「温泉は当然混浴だぞ。お互い浴衣で、あらやだぁな展開。んー帯で縛りプレイもいいよな」




ケッタイな計画を立てていく先輩に愛想笑いを零しながら、俺は彼女をただひたすら想う。


先輩に落ちかけている、俺の、初めての欲情な気がした。


先輩にとっては大変遺憾な事に肉欲じゃない、精神的な我が儘を抱いたんだ。