前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―



「愚問っすよ、それ。夏の大三角形はこと座のベガ、わし座のアルタイル、はくちょう座のデネブの三つから成り立っていますっす」


ちなみにベガとアルタイルは七夕伝説の織姫、彦星。


でも七月の日本じゃ夏の大三角形はよく見えない。

日本は温暖湿潤気候に当たっているから、梅雨の影響もあって雨の日も多い。


かの有名な七月七日に見えるであろう織姫さんと彦星さんも、雨天、曇天のせいで見えないことが多々。

恒例となっていることだろう。


月遅れに当たる旧七夕、つまり八月上旬の方がよく見える。天の川も八月の方がよく見える筈だ。

 
「これは余談になるんっすけど、天の川って一年中見ることができるんっす。でも夏の天の川は日本では見え易いのに対し、冬の天の川はよく見えないんです。
理由は夏の天の川は発光が強く、冬の天の川は発光が淡い。日本の地上はネオンだらけっすからね。人工の光が勝ってよく見えないんっす。

ちょっと寂しいですね。人間の作っちまった光が勝って、本来見えるべき星明りが見えないなんて」


静聴していた先輩は相槌を打って、「本当にな」弱く笑った。


「そういった意味では人間は愚者だ。自然と上手く調和できず齟齬(そご)をきたす。それだけではない。地位を手に入れた人間は、酷く貪欲なり、本来見るべき姿を忘却してしまう。地位の固持するなんて疲労を覚えるだろうに」


あたしも疲れを覚えるよ。


ぼやく先輩だったけど、ふっと我に返って「空は本当に星に詳しいんだな」柔和に綻んだ。


まるで自分の胸の内を触れて欲しくないように、明るく話題を切り替える先輩に便乗して俺は得意気な顔を作った。

理科系は苦手でも星は得意なんだ、と。


だけど内心は引っ掛かっていた。先輩の異様な切り替えに。



仮説。

大雅先輩の言う先輩の孤独とやらに、俺は触れているのかもしれない。

弱さと脆さに触れているのかもしれない。


勘でしかないけれど。
 

「そうだ先輩、冬になったら一緒に天の川を見ません? 都会じゃ見えなくても田舎なら見えますよ、冬の天の川。俺、一度冬の天の川を見てみたくって。夏の天の川はたっぷり見ましたし」


提案に彼女は目を削いだ。


「空。それは冬になってもあたしの傍……」


微かに聞こえた台詞は当人の手によって揉み消された。