前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―




食後のことをなるべく考えないようにして、俺は先輩と部屋を出てダイニングルームと呼ばれた一室に向かう。


ちょいと先を歩く先輩の後ろについて、長い長い回廊をひたすら歩む。


まったくもってメシを食うだけで大移動だなんて……改めておっきな家に住んでいるんだな、先輩の家。


俺の家なんてメシを食うスペースと寝室が一緒だぞ。

自分の部屋があるなんて俺の家には論外だね。部屋があるって羨ましい。


――だけど。


(俺にはちょっと広過ぎるな。この家)


洋館って広々しているわりに、どこか肌寒い気がする。


人のぬくもりが行き交いしてないっていうのかな。


静けさに抱かれている無機質な壁や天井、床が、妙に冷たいんだ。

空気もそうだし、この長い回廊だってそうだ。


俺達の足音以外に何も消えない。


時折聞こえてくれる音といえば、等間隔に並べられている窓辺の向こうの外界音くらいか。


回廊空間は無音に近い。

狭い家で生きてきたせいかな、そう感じるのは。


窓ガラスに映る自分の姿に足を止めて、俺は暮夜の空を仰ぐ。


真っ暗な空には小さな点々。

星なんだろうけど、室内の明かりのせいか、星明りがこれぽっちもこっちまで届いていない。

綺麗とは程遠く、弱り切った蛍の光を見ている気分だ。


「空、どうした?」


歩みを止めた先輩が踵返した。


「あ、いえ」


俺は生返事を零し、早足で彼女の下に歩んだ。

何をしていたのだと訝しげな顔を作る先輩に、「星が見えて」その場凌ぎの話題を切り出す。


「星座とか見えないかなって思ったんっすけど、やっぱり見えないですよね。俺、わりと星座には詳しいんですよ」

「ふふっ、空、理科系は苦手じゃなかったか? 天体は科学分野だぞ」


「星座は別なんっすよ。よく夏休みの自由研究で取り扱ってましたし。まあ、肉眼の天体観測なんですけどね。父さんと付近の空き地でよく星を見ていました。夏の大三角形とか探していましたね」 


「では、空に聞こう。夏の大三角形は何と何と何の星で出来ているかを」


のたまう先輩に、俺は目尻を下げた。