前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―



先輩はピアノとフルートが得意らしく、前者のピアノを聴かせてもらった。


『ラ・カンパネッラ』という曲を聴かせてもらったんだけど、まず曲名聞いても分からないという。


演奏とか聴いても、やっぱり分からん。

聴いたこともない。


でも音楽に疎い俺でも、その曲を弾ける先輩は凄いんだっていうことは分かった。

指が縺れないか? と首を傾げるくらい、スピードで演奏しているんだもんな。


「空は何か得意な楽器とかあるのか?」


先輩からこんな質問されると、俺は決まり悪く返答。


「俺、その、音楽とか絵とか芸術関係は駄目なんです。特に音楽はチンプンカンプンで。歌とか……お、音痴なんっす」

「意外だな。あんた音痴なのか?」


「ちっとも音程がとれないんっすよ。あとリズム感も全然。小学校でやったリコーダーとか、指は動くけどリズムが取れなかったから、毎度再テストさせられてました」


「試しに1曲歌ってくれ」


先輩に言われ、俺はムリムリと首を横に振った。


簡単な曲でいいから、とか何とか言って『カエルの歌』を弾き始める先輩の強引な戦法で、俺は泣く泣く1曲歌わされる。


で、歌い終わった先輩の感想。


「あっはっはっはっ! た、確かに音痴だなっ、なかなかの酷さだった」


清々しいくらい涙を流して大笑いしてくれた。


酷いやい、俺、音痴って言ったのに!

言った前提でそんなに笑ってくれるとか超酷い!


ああもう頑張って歌ったのにっ……。


「ほっといて下さい」


どうせ音痴だと大笑いされた俺は完全に拗ねちまったんだけど、

「ごめんごめん」

もう笑わないと先輩に頭を撫でられたから、不機嫌を解除することにした。

内心、まだ癪に障っていたけど、よしよし頭を撫でられて子供扱いされた方が絶対に嫌だろ!


しかも先輩、


「音痴はある程度、練習すれば直る。気にしているのなら、一緒に練習しよう。な?」

と気遣ってきたんだ。


優しくしてくれてるのに、ずーっとスネスネ男になるのはお門違いだろう。


そうは言ってもまだまだコドモな俺は、顔がまだむくれたままだった。


気遣いは嬉しかったから、「約束っすよ」ぶっきら棒に約束を取り付けることにする。

「ああ絶対だ。あたしが直してやるさ」

鈴理先輩は頼もしく一笑してくれたから、やっと機嫌を取り戻すことに成功した。

……現金な俺!