「誤魔化さないで早くこれ解いて下さい」
おずおずと物申す俺に目で笑って先輩はまたキスを仕掛けてこようとする。
あ、あ、あ、味をしめたなっ! ちょ、先輩、ほんとこれ以上は!
「ほら、空おねだり。ちょうだいは?」
「い、言いませんよもう! 俺は満足しまっ、さ、鎖骨を舐めっ、舐めるのはやめっ、やめて下さい」
「空がおねだりをしたらやめてやる」
「意地が悪いっす。ゲッ、また痕をつけっ、わ、分かりました。言いますっ、言いますから」
コンコン―。
「失礼します。空さまのお飲み物を持ってまいりました。わしからお詫びとして、巷で有名なわっるふぉおおっ?! 鈴理、お、お嬢様! 空さまに何しているのですかぁああ!」
悲鳴を上げてその場にトレイを落としたのは……早とちりせっかち執事の竹光さん。
チッと舌打ちを鳴らす先輩は「これもパターン化している」
むっと腕を組んでその場にどっかりと腰を下ろした。
どうでもいいっすけど、俺の上で座り込むのは……。
竹光さんは先輩に歩み寄るや否や、
「なりませんぞっ、そのような行為はなりませんぞぉおおお!」
捲くし立てて注意、注意、注意。
「ばあやは何も言わん。だからあんたも何も言うな」
つーんとそっぽを向く先輩は我が儘を言って、お得意のあたし様を発動。
「なりませーん!」
薄い髪を掻き毟る竹光さんはヤンヤンギャンギャンノンノン吠え始めた。
「お嬢様! そういう淫らな行為はお互い同意の上でするべきものでありますぞ!」
「無論同意した上だ」
あくまでキス範囲っすからね、先輩、忘れないで下さいよ。
「では空さまのこれは何ですかのう! このように拘束してしまって。お、襲ったりしたのでは!」
ポンピンっす。
襲われかけていました。
「襲う? 馬鹿を言え。これは……これは空の趣味だ!」
「あ、阿呆なこと言わないで下さい! あたしの彼氏Mなんですみたいな言い方はノンセンキューっす! 解いて下さいって先から言っているじゃないっすか先輩ぃいい!」
「鈴理お嬢様! このような真似はなりませんぞ! 御子息にもしものことがあったら、豊福家の御家族にどうお詫びするつもりですか!」
「責任を取って空を婿として迎える。此方の婿養子になってもらうさ」
「また破天荒なことを仰られてっ、お嬢様ぁああ!」
「ええい煩い! ナニが不服だ!」
三女の傍若無人っぷりに嘆く竹光さんと、あたし様をいかんなく発動する鈴理お嬢様。
どうでもいいけど、早く俺の拘束を解いてくれないかな。
いつまでもいつまでも質の良いネクタイで縛られている可哀想な両手首を見つめて、俺は小さく溜息をついた。
今夜本当に食われるんじゃないだろうか。不安は尽きない。



