だけど肉食だし、あたし様だし、傍若無人、何よりお金持ちのお嬢様だ。
貧乏人の俺とは不釣合いだって。
気紛れなんだろうな。
お嬢様にとって豊福空っていう凡人男子生徒が物珍しかったんだろう。
もう少ししたら、きっと飽きるんだと思う。
それまでの辛抱だ。
先輩くらいの容姿だったら男も選り取り見取りだろう。
「それは違うと思うぜ。空」
「アジくん、いきなりなんだよ」
アジくんの腕が俺の首に回ってくる。
どうやら俺が心の中で呟いた「男も選り取り見取り~」の台詞を表に出していたみたい。バッチリとアジくんの耳に入ってしまった。
ニッと男前に笑うアジくんは、「鈴理先輩はお前が好きなのさ」励ましの言葉を送ってくれる。
何を根拠にそんなこと言ってくれるんだよ。
眉根を寄せる俺に、「どう見ても君が好きなんだって」エビくんも俺の肩に腕を置いて話に加担してきた。
「なんたって向こうは世の男が見惚れちまいそうな別嬪さんだぜ? その別嬪さんが星の数いる男の中から空にアタックしているんだ。
そりゃそれなりに理由があって惚れちまったに違いないって。羨ましいよなぁ。俺も美人にアタックされてみたいって」
「本多の言うとおり。空くんはラッキーボーイだ。性格に一癖、二癖、飛んで百癖あっても悪い相手じゃないと思う」
悪い相手じゃない、ねぇ。
初対面に男女の営み発言をしたり、会う度に猛烈なアタックをされたり、問答無用で濃厚なキスをされたり、男のポジションに立ちたいって熱弁する鈴理先輩が悪い相手じゃない、ねぇ。
そりゃ悪い人じゃないとは思うよ。
男子は勿論、姉御のような器の大きさと懐の深さは先輩後輩同学年関わらず女子にも大人気だし(俺はそんな一面、見たこと無いけど)。
悪い人じゃないのは分かる。
ただなぁ。
肉食な面やあたし様な一面を知っている俺からしたら、鈴理先輩は百癖以上に癖がある。ありまくる。
彼女が好き嫌い以前に癖があり過ぎて俺の中で処理できないというか、恋愛対象として見られないというか。
悶々と思考を巡らせる俺に、「早くくっ付いちまえって」アジくんがニヤッと笑い、「付き合ったら発見があるかも」エビくんが愉快そうに黒縁眼鏡のブリッチ部分を押した。
フライト兄弟め、俺の不幸を楽しんでいるな。
俺は両サイドにいる二人を交互に睨み付けた。