出入り口扉に頭と背中をぶつけ、痛みのあまり俺は身悶え。


犯人は勿論、早とちりせっかちの竹光さん。


今の空気をちーっとも読んでくれていないのか、まだ不届き者だのなんだの新人だからだの言ってくれる。

しかも言葉遣いが減点だそうな。


あーあ、もうツッコむ余地もなし。


肩を押さえていた俺は重々しい溜息をついて竹光さんに視線を送る。


そこにはお小言を垂れる竹光さんと、その背後で指の関節を鳴らしている鈴理先輩。


「た・け・み・つッ、お前という奴は」


未だに空気を読んでくれていない竹光さんがきょとん顔を作った。


対照的に空気を読んだ晶子さんがすっかり青褪めて、


「竹光さん。その方がお嬢様の彼氏様ですよ」


と助言。


「いやいやまさか」


笑声を漏らす竹光さんは、この少年が彼氏様なわけがないとひらひら手を振った。


「第一彼氏様の名前は豊福さまじゃぞ? この少年の名前は……あー……少年、名はなんじゃった?」


「豊福、空です」

「そうそう、豊福空さ………………」
  
かちーんと固まる竹光さんに、


「申し遅れました。俺の名前は豊福空です」


苦笑いで自己紹介。


レモンを丸呑みしたような表情を作るご老人の背後では、指の関節をしきりに鳴らしているあたし様が仁王立ちしている。


「この騒動、やっぱりアンタのせいじゃないか」


ある程度の状況を察してくれたのか、先輩はフルフルと握り拳を作って青筋を立てる。

 
 
「竹光っ、そこになおれ―――!」