「よっこらしょ。零しそうだな」
「ふふっ。気を付けてね」
トレイにお茶とお菓子を載せて回廊を歩いていた俺は、メイドさんの案内で鈴理先輩、じゃない鈴理お嬢様の部屋を目指す。
メイドさんのお名前は晶子(あきこ)さんと言うらしく、此処に勤め始めて三年目のそれなりベテランメイドさんらしい。
住み込みで働いているとか。
俺は彼女から鈴理お嬢様の日々について知る事が出来た。
鈴理お嬢様は四姉妹の中で一番おてんばさん。
頼り甲斐はあるけど突発的な行動が多いらしく、召使さん達を困らせることも多々だとか。
男勝りの雄々しい性格をしているから、令嬢という雰囲気皆無らしい。
それから意外な事実、自ら家族と接触しない性格らしいんだ。
四姉妹の仲は各々良いらしいんだけど、自分から話し掛けたりするタイプじゃないとか。
劣等感からかもしれない、と晶子さんは苦笑を漏らす。
「鈴理お嬢様は、旦那様や奥様から期待されていないとお思いだから。姉妹と接触しているとなんとなく疎外感を抱いてしまうのみたいなの。仲は良いのだけれど」
「そうなんっすか」
「しっかり者だから弱い心を見せない方だけれど、きっと寂しい思いを抱いていると思うの。いつも寂しそうだったもの、鈴理お嬢様。
でもね、最近は彼氏様ができたから、そうでもないみたいなの。今日だって凄く楽しみにしていたんだから」
目尻を下げている晶子さんに俺はこっそりと頬を赤くした。
やっぱ気恥ずかしいよな、こういう話。
寂しさが俺で紛れてくれていたなら、本望だけど。
内心で照れていると、「どうしたの?」晶子さんが不思議そうに声を掛けてきた。
ブンブン首を横に振って、俺は回廊をぐるっと見渡す。
凄いよな、廊下に絵画、照明にシャンデリア、燭台らしきものまである。さすがはお嬢様の家だよな。
と、回廊の向こうから怒声が聞こえてきた。
途端に晶子さんが溜息をつき、俺に「無礼のないようにね」と注意を促してくる。
すんません、晶子さん。俺のせいではないけど、俺が行方不明なせいでこんな事態に。
俺達は鈴理お嬢様のお部屋前に立った。
そっと晶子さんがノックをしてみる。
応答なし。
もう一度してみるけど、やっぱ応答なし。
再度挑戦。
結果は一緒。
仕方がなしに晶子さんが扉を開けると、耳のつんざくような鈴理先輩、じゃね、鈴理お嬢様の声が飛んできた。



