前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―



やっぱ人違いをされてるみたいで、


「今日は特に忙しいんじゃぞ」


と、食器を洗う俺の傍で竹光さんが懇切丁寧に教えてくれる。

ナニが忙しいんですか? って聞けば、

 
「今日は三女・鈴理お嬢様の大事なご来客が来られるのじゃ。どうやら彼氏様らしく鈴理お嬢様の気合の入れようは、それはそれは凄まじいんじゃ。
もうご到着しているようでのう、今、接待しているところじゃろう」


……いや、接待してないと思うよ。
だってその客、俺だから。

自惚れじゃなかったら、俺、一応先輩の彼氏なんだけど。

見えないんだろうな、先輩の彼女に…、分かってるけどさ、分かってはいるけど、ムナイ。
 

てか本当に忙しいんだな。


フツー俺の名前くらい聞くだろうに、仕事を優先させるとか…、それだけ先輩が俺のために何か準備をしてくれてるんだろうな。 
 


さてと本当のことを言うべきなのか、

それとも今は黙って食器を洗うべきなのか、


二者択一を迫られた俺だったけど、「遅い!」怒鳴られちゃあ、後者を選ぶしかない。


いいんだ、家でも皿洗いはよくしてるし、働かざるもの食うべからずだろ。貧乏暇なし。


つまり働けってことだろ!

ああ働いてやる、俺は働くことに慣れてるんだベラボウチクショウめ!


吐息をついて俺は一心不乱に食器を洗う。


早く先輩、帰って来ないかな。


合気道の後だから疲れてるかもな…、お茶くらい淹れてやりたいけど、この食器の数からして先輩の方が先に帰って来ちまうかもしれない。
 

でもお疲れ様って言ってやりたいな。

頑張ってきた先輩にさ。


彼女の顔を思い浮かべ、俺は目尻を下げた。

先輩も頑張ってるんだ、俺も頑張ろう。

勘違いって理不尽な理由で家事をさせられてるけど、しゃーないよな。

俺も頑張ろう。


と、ポジティブに思う。

思わないとやってらんねぇってもう。


この時、来客の俺が行方不明になっていると召使さん達が騒然としていたらしいんだけど…、当然ながら食器を洗っている俺がその騒動を知る筈もなかった。