前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―



ちゃっちゃかと皿を洗ってしまった後は、お着替えらしい。


竹光さんに連れられ、折角母屋まで来たのにUターンして最初見た召使さん達の洋館に足を踏み込んだ俺は、召使さん達と同じ服にお着替え。


黒のジャケットにズボン、灰色のベスト、白のワイシャツ。最後にネクタイを締めてもらって、立派な新米執事の完成だ。


うっしゃ時給が幾らは知らないけど、頑張って働くぞ! ……なんて思えるわけもない。


あーあ、どうしよう、俺、誰と勘違いされて新米執事をさせられているんだろう。


姿鏡の前で自分の執事服姿に、ポリポリと頭部を掻きつつ溜息。


堅苦しい姿だな。似合わないの。


早く自分の正体を明かす契機が欲しいんだけど、今の竹光さんは超ピリピリしている。


ちょっとでも仕事以外のことを口に出せば喝破されそうだもん。


締められたネクタイの先を指で弄っていると、


「忙しいがある程度知識が必要じゃ」


話題を切り出される。


「いいか、お主がこれから働く竹之内家は由緒ある財閥でのう。旦那様の名前が竹之内 英也(ひでや)様。奥様が桃子(ももこ)様。長女から咲子(さきこ)様、真衣(まい)様、鈴理様、瑠璃(るり)様がおられる。名前はしかと覚えておくんじゃぞ。顔もお会いしたらその場で覚えるんじゃ」


鈴理様は嫌でも顔を覚えているんだけどな。一応、彼氏だし。



「擦れ違う際は立ち止まって会釈。そしてご挨拶。これは必然じゃ。おっと、お主の口癖は直すんじゃぞ。間違ったってお嬢様方の前で言ったら……その時は制裁じゃからのう」
 


制裁とは何をする気なのだろう。怖いんだけど。


身震いをする俺を余所に竹光さんは竹之内家のルールを事細かに教えてくれる。


教えてくれるんだけど、ちっとも頭に入ってこない。


しょーがないじゃないか。早口で捲くし立てるように言われるんだから。


いっぺんに覚えろって方が無理だろ。


目が回りそうな条約を述べた後、竹光さんは「お戻りじゃな」大きな窓の外を見て目を眇める。


誰がお戻りに……俺も窓の外に目を向けた。