前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―



次に待っていたのは力作業。


花壇の傍に置いてあった肥料袋を倉庫に運ぶというシンプルな作業だったんだけど、これがすこぶる辛かった。

肥料袋の重さは一袋約10キロ。

一個や二個ならまだしも、花壇はあちらこちらにあるし、それに伴って肥料袋もあちらこちらにある。

手押し車で何度も倉庫と花壇を往復するだけでも重労働だ。


作業が完了する頃には疲労がドッと出てきた。

これまた20分以内に終わらせろと言われていたんだけど、残念なことに30分掛かっちまった。


だってしょーがない。

花壇が何処にあるのか把握してないんだから、まず探すのに手間取ったんだ。


竹光さんからは「情けない」貧弱男だとレッテルを貼られた。

そう言われたらまさしくそうなんだけど、そこまで言わなくていいじゃない! 俺は遊びに来ただけなのに!


ゼェハァと息をついていると、気遣いなのか飲み物を俺にくれた。


わりとイイ人なんだと実感する間もなく、飲み物を飲んだ後は泥だらけの手を洗うよう強要され、厨房へと連れて行かれた。


「あの全部洗うんっすか。これ」

「言葉遣い」


「……竹光さん、これらの食器を全部洗うのですか? ちなみに何分で洗えば宜しいんでしょう?」
 

馬鹿丁寧な敬語を使えば、竹光さんもちょい俺を見直してくれたのか、「そうじゃな。15分か」腕時計を見て御命令。


嘘だろ、この食器の山を15分で洗えと?


そんな神業なことできる奴がいたら俺の前に出てきて欲しい。


喜んで替わってやるから。



はてさて俺は飲食店のような大きな厨房の一角で、しかもご立派過ぎる流し台の前に立たされて洗い物を強制された。


やっぱり人違いをされているみたいで、


「今日は特に忙しいんじゃぞ」


食器を洗う俺の傍で竹光さんが懇切丁寧に教えてくれる。

ナニが忙しいんですか? と聞けば、


「今日は三女・鈴理お嬢様の大事なご来客が来られるのじゃ。
どうやら彼氏様らしく鈴理お嬢様の気合の入れようは、それは、それは凄まじいんじゃ。もうご到着しているようでのう、今、接待しているところじゃろう」


……いや、接待してないと思うよ。

だってその客は俺だから。

自惚れじゃなかったら、一応先輩の彼氏なんだけど。


見えないんだろうな、先輩の彼女に、分かっているけどさ、分かってはいるけど、ムナイ。


でも本当に忙しいんだな。

フツー俺の名前くらい聞くだろうに、仕事を優先させるとか……それだけ先輩が俺のために何か準備をしてくれているのかな。


だったら少しだけ自惚れたいかも。 



さてと俺は本当のことを言うべきなのか、それとも今は黙って食器を洗うべきなのか。


二者択一を迫られたのだけど、「遅い!」怒鳴られちゃあ、後者を選ぶしかない。

いいんだ、家でも皿洗いはよくしているし、働かざるもの食うべからずだろ。貧乏暇なし。


つまり働けってことだろ! ああ働いてやる、俺は働くことに慣れている。


吐息をついて俺は一心不乱に食器を洗う。


早く先輩、帰って来ないかな。


合気道の後だから疲れているかもな。

お茶くらい淹れてやりたいけど、この食器の数からして先輩の方が先に帰って来ちまうかもしれない。


でもお疲れ様とは言ってやりたいな。

頑張ってきた先輩にさ。


彼女の顔を思い浮かべ、俺は目尻を下げた。


先輩も頑張っているんだ、俺も頑張ろう。

勘違いのせいで理不尽な理由で家事をさせられているけど、しゃーないよな。


俺も頑張ろう。ポジティブに思う。思わないとやってらんねぇってもう。



この時、来客の俺が行方不明になっていると召使さん達が騒然としていたらしいんだけど……当然ながら食器を洗っている俺がその騒動を知る筈もなかった。