「此処から道沿いに200mほど歩いて下さいませ。歩いていると洋館が見えますので、そちらの玄関扉を叩いて下さい。空さまが到着したことは既に連絡しているので」
「え゛。200m先って、だってそこに洋館が見えますよ。あれは」
「あれは使い達の洋館でして。母屋(おもや)は奥にあるのですよ。そこまでお送りしたいのですが、母屋までは車が行き来できませんので。
ご安心下さい、道沿いに歩けば迷わず行く事ができますので」
ニコッと笑う田中さん。
きっとジャパニーズを俺にスピーキングしてくれているんでしょうけど、ちーっとも理解できません。
玄関まで200mは歩かなきゃいけないとか、200m……大体グランド一周分だよな。
つまり「ただいま」と帰って来た人間が、学校のグランドを一周してから家の中に入るようなものだ。
どんだけ広いんだよ、此処。
何坪あるのか是非とも知りたいね。
実際は何坪あるのか、聞くのも怖いけど。
「これから私はお嬢様を迎えに行かなければなりませんので」
ご一緒したいのですが、苦笑する田中さんに「大丈夫っす」俺は自力で玄関まで行くと笑みを返した。
道沿いに歩けばいいんだよな。
200mくらい歩いた先に母屋があるから、そこの玄関を叩いて「ごめんください」と言う。完璧だ!
俺は此処まで送ってくれた田中さんにお礼を言うと、早速未知なる領域、じゃね、先輩の家の敷地に足を踏み込む。
入って直ぐに気付いたこと。それは。
「スッゲェ。此処、この庭、シンメトリーになっている」
豆知識。
シンメトリーというのは左右対称のことだ。
右左均等につりあいの取れた庭たちに俺は感動を覚える。
道であろう石畳を歩きながら、俺はニッポンとは思えない庭の西洋風景に感嘆の声しか出なかった。
さすがは竹之内財閥の住居。
庭への金の掛け方がまるで違う。
幾らか買っているんだろう……とか思うのは俺が貧乏くさいせいだろうか。
双方に見える小さな噴水を通り過ぎ、置物であろう小人さんたちに手を振り、のんびりぶらぶらと道を進むこと約五分。
母屋が見えてきた。
さっき見た洋館よりも豪勢で大きな建物に、俺は絶句しかできない。
レンガ造りで三階建の洋館はちょいと古そうだけど威厳のある風貌。
正面から見たカンジでもどどーんとでかい……一体全体どれほど広いんだろう。
嗚呼、俺はもしかして西洋風竜宮城にでも来たのかもしれないな。
玄関前のレンガ階段で立ち尽くし、ただただ洋館を見つめていると「やっと来たかのう!」
しゃがれた声で話し掛けられる。
首を捻れば、黒のジャケットにズボン、灰色のベスト、白のワイシャツ、ネクタイ、所謂執事服を着こなしたご老人が歩み寄って来た。
「こんにちは」
挨拶する俺に、「遅いぞい!」時間は押していると急かされる。
……遅いって何が?
もしかして200mの道のりを制限時間内で歩かないといけない規則でもあるんでしょうか?
だったら、すみません。
のんびりとシンメトリーの庭に感動を覚えながら歩いていました。
取り敢えず謝罪をすれば、ご老人は「最近の若い者は……」と愚痴を零し、「こっちじゃ」と誘導。
庭の方に歩き始める。
こっちって、え、玄関じゃ……えっ?
「何をしとる! 早くせんか!」
「え、はいっ。今行きますっす!」
駆け足で老人の下へ。
そしたら「言葉遣いに減点じゃ!」思いっきり頭を叩かれた。
アイッテー! なんで俺、叩かれないと……。
「ナニするんっすか、イッダダ!」
「最近の若者言葉じゃろうが、その語尾に『――っす』を付けるのはやめい! 見っとも無い!」
そんな、外泊する彼氏の言葉遣いを見られるんっすか。
そりゃあ厳しいっすよ竹之内財閥。
運転手の田中さんは何も言ってなかったし、鈴理先輩だって何もそんなこと。
途方に暮れる俺を急かし、さっさと歩くご老人の名前は竹光(たけみつ)さんって言うらしい。
ずんずんと先を歩いて、「時間は無いんじゃ」てきぱき行動しろとか何とか、お小言を垂れてくる。



