――何度も聞こえてくる「空さま」の声。
ゆさゆさと体を揺すられて、俺は沈んでいた意識を浮上させた。
白っぽい靄の掛かった視界を目にしつつ、それを晴らすように目を擦って欠伸を噛み締める。
なんだよ、まだ寝ていたいんだけど。
心中でグズる俺だったけど、鼓膜に「到着しましたよ」の単語が飛び込んできて覚醒。
ハッと顔を上げれば、
「おはようございます」
運転手の田中さんがにこやかに俺を見下ろしていた。
ね、寝ていたのか俺っ!
1時間睡眠がこんなところで災いを呼ぶなんて……しかも田中さんに起こしてもらうなんて。
「すみません」
大慌てて頭を下げてイソイソと荷物を持った。
気にする素振りもなく田中さんが下車する。
倣って俺も下車すると、見慣れない景色が飛び込んできた。
此処は住宅街らしく一軒家があちらこちら。
しかも新築ばかりだ。
汚れのない綺麗な二階建て、三階建て一軒家達が俺を興味津々に見返してきていた。
とても静かで吹き抜ける風の音と、何処から聞こえる布団の叩く音くらいしか音がない。
先輩の住む家はこの一軒家達の何処かのようだ。意外と普通だな。
こういっちゃなんだけど財閥の娘って言うから、てっきり度肝の抜くような住居かと思っていたのに。
「どれが先輩の家っすか?」
俺の質問に、「此方ですよ」田中さんが振り返って後ろを右手で指す。
首を捻った俺は思わず、通学鞄を落としてしまった。
ワッツ・ホワイ・ジャパン?
奇妙奇怪な単語を頭の中で並べて口に出してみるけど、理解が追いつかない。
俺の背後にそびえ建っていたのは大きな鉄門。
その向こうに見えるのは広そうな中庭に洋館らしき屋敷。
綺麗に刈られている芝や花壇、木々を遠目で見つめた俺は数秒前の俺を罵りたくなった。
なあにが普通だよ。
先輩は期待通りの、いえ期待以上の財閥の娘だよ。
スッゲー家に住んでいるよ。
家って安易に言っていいのか分かんないけど。



