俺の視界に工事中の建物が見えた。
あれは……。
「あれは今度アウトレットモール敷地内にできる観覧車ですよ。主に恋人をターゲットにするそうで、夜も稼働しているとか。三週間後には完成するそうです。
空さま、完成したら是非鈴理お嬢様をお誘いしてあそこに連れて行ってやって下さい。お嬢様は観覧車が大好きなので」
「は……ははっ、観覧車って言えば恋人達のデートスポットっすもんね」
でも、願いは叶えられそうにない。
観覧車になんか乗ったら俺が昇天しちまう。
高いとかレベルじゃないぞ、あれ。
ナニが悲しくてお金を払ってまで高い場所に行かなきゃならないのか、俺には理解し難い。
引き攣り笑いでその場を凌ぎ、向こうに見える観覧車に目を向ける。
車輪状のフレーム、飾られているゴンドラ、稼働はしていないけど、1ヶ月内には完成してゆっくりと回るんだろうな。
人間ってのは新しい物好きだから、完成した日には長蛇の列ができるに違いない。
先輩は好きなんだな。観覧車。
そんな話は一度も聞いたことがない……俺が高所恐怖症だからだと思う。
先輩は俺に気遣ってくれているんだ。乗れない俺を困らせないために。
(克服できたらいいんだけどな)
そしたら完成する観覧車にだって乗れるし、遊園地にも行けるんだろうな。
遊園地なんて俺の乗れるものが殆どない。
高いところを要する絶叫系も観覧車も駄目だから。
メリーゴーランドやコーヒーカップなら乗れそうなんだけどな。
……なんで俺、高い所駄目なんだろう。
トラウマがあるのは確かなんだけど、なんでトラウマがあるんだろう。
根本的なトラウマを憶えていない。
父さんや母さんに聞いても、「ジャングルジムから落ちて大怪我を負ったからだよ」で終わる。
そう言われたらきっとそうなんだけど、でもそれだけ、なんだろうか。
なにか忘れているんじゃ、俺はなにか。
だけどナニを。
ナニを俺は忘れているんだろう。
真面目に真剣に考えても何も思い出せず、俺は欠伸を一つ噛み締めて窓のフレームに肘を置いた。
忘れちゃいけないナニかがあったことは確かだった。
でも今の俺じゃ思い出せない――。



