前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―



レースのエプロン、男にレースのエプロン。


「他にも女装させようとしてきたり、押し倒されたり、姫の役させられそうになったり。そりゃあ、色んな危機に直面した。逃げ切れたこともあったが、捕まったことも多々。
ああくそっ、俺の黒歴史っ! あいつの性格がこれまた男前っ、じゃね、女前だから姫様抱っことかぁああああっうわぁああああくそぉおおお!」


頭を抱えて身悶えしている大雅先輩は、


「穴があったらそこに住みたい」


耳まで赤く染めてぐわぁあと唸っている。


俺のためにも、大雅先輩のためにも、聞かなきゃ良かった。今のこと。


ブルッと身震いをする俺は人参スティックを素手で掬い取り、ポリポリと噛み砕いていく。

憂鬱になってきたぞ、外泊。


「で、でも……今はそんな男を女装させたりする趣味は」


「ふっ。甘いなテメェ。あいつは男のメイド姿やセーラー姿に、『これは使える』って今でも言っているんだからな。
はっはっはテメェ、大変だな。きーっと狙っているぜ。彼氏のメイド姿やセーラー姿」


ヤケクソに、そして人の不幸を清々しく笑ってくださる大雅先輩。

過去に苦労をしてきたんだな。同情はするよ、同情は。


「じゃ、じゃあもう一つ! ……その、鈴理先輩、俺と、せ、っくすしたいとか言っちゃっているんですけど、本気、だとも思うんっすけど。
今度の土日、俺、先輩の家に泊まりに行くっす。健全の仲を保つにはどうしたらいいっすか? 許婚さんにこんなこと聞くの、どうかとも思うんですけど」


「言ったろ? 俺と鈴理は両親が決めた許婚であって、当事者同士はそういう目で見られないって。
第一仮にそういう関係になっちまったら、俺とあいつは濡れ場の時苦労すると思うぞ。なにせお互いに肉食系のがっつきタイプだからさ。リードしたいって願望が先立って喧嘩しちまう。

鈴理にはお前みたいな受け身へなちょこタイプが合っているだろうよ」



ひひっ。揶揄する大雅先輩に、むっと脹れ面を作って見せると「へいへい」質問に答えてやるって、と肩を竦める。

「そうだな」

箸を置き、頬杖を付いて、満遍なく俺を観察した先輩は指差して助言。


「常に警戒心と神経を研ぎ澄まして、第六感をいかんなく使え。それしか方法はねぇ」

「まどろっこしい言い方っすけど……要は逃げろと?」


「それしかねぇんだよ。あいつにヤられたくねぇなら、とにかく逃げて、逃げて、にげて自分の身を守れ。あいつを押し倒すとか、無理だろ?」


「無理っすよ! お、おお……俺は……プラトニック関係でいきたいんっすから」

「童貞くんっぽそうもんな。まあ、いいじゃんか、一回くれぇ鈴理とヤっちまったら? シたら、あいつの気、少しは治まるかもしれねぇし」


とんでもないと椅子を押し倒し、俺はテーブルを叩いた。


うをおいっと驚きの声を上げる大雅先輩に、

「過ちは駄目っす!」

声音を張ってバンバンとテーブル上を叩きまくる。


「俺っ、責任取れませんもん! 経済的にも、社会的にもっ、俺はまだ子供なんっすから! それに……安易な行為で苦しむのは俺じゃなくて女性の鈴理先輩っすよ! 保健の授業で習いませんでした?! 安易な行為はするなって」


「いや、そりゃそうだけどよ」

「そ……それに俺だって、こ、怖いっすよ。じょ、女性に触れるとか。未知な世界っす」


もごもごと口ごもりながら、俺は椅子を立て直して腰を下ろす。


目を点にする大雅先輩だったけど、俺の恐い発言に大爆笑し始めた。

ひ、ひどいっ、笑い事じゃないのに。


身を小さくする俺に、「悪い悪い」ヒィヒィ笑声を漏らし、目尻に溜まった涙を指で拭いながら、転がっていた箸を拾う。


冷め始めている焼肉を一枚挟んで、口内に運び咀嚼。素材を味わいつつ、「誰だってそうだろうよ」俺に目尻を下げた。

そうっすかねぇ……俺はへの字に口を結ぶ。


「肉食系男子は……その、怖じるなんてしなさそうですし」

「バッカ。そりゃ恋愛ドラマの見過ぎだ。よく見る肉食男子俺様系が誰彼ガオーッと襲う。そんなこと、そうできたことじゃねえ。俺だって無理だ」