「俺が教室に行ったら、お前がいて当然だろ? なーんでいねぇんだよ。この俺を待ち人にさせやがって」


なんでって見りゃ分かるでしょ。

体育だったんっすよ。体操着が分からないっすかね。


俺様オーラに負けた俺は素直に「すんません」頭を下げて謝罪。

すっごい大人の対応をしたよな、自画自賛したくなるぞ。


「分かればいいんだよ」


気を良くした二階堂先輩はフンと鼻を鳴らしてガシッと俺の腕を掴んできた。

この腕の拘束の意味は?


「二階堂先輩っ、あの、俺……着替えないとッ、イダダダダッ!」

「だあれに向かって口をきいているんだ? テメェが着替えるかどうかなんてカンケーねぇ。俺がテメェに用がある。だからテメェは黙って従え!」
 

思い切り片耳を引っ張られた上に、耳元で怒鳴られちゃったんだけど。

「来い!」

そのままの状態で歩み始めたものだから、俺も歩かざるを得ない。


ああもう授業をサボりたくないのにっ、二階堂先輩! お話し合いなら昼休みでも。

俺は授業に出たい、授業料が掛かっているんっすからぁああ!


これでも俺、特待生なんっす!

10分休み程度で終わる話じゃないでしょ、雰囲気的に。


「放して下さい!」

「うっせぇ!」


唖然としているフライト兄弟を置いて、俺は二階堂先輩に拉致られちまったのだった。



はてさて、俺が拉致られた場所は人気の無い廊下。

人がいないことを十二分に確認して、二階堂先輩は耳から手を放してくれた。


あー痛かった。

何も耳を引っ張らなくてもいいじゃないか。耳赤くなってないかな。ジンジンするんだけど。

そして時間は大丈夫かな。授業には遅れたくないんだけど、マジで。


「いきなりなんっすか……二階堂先輩。こんなところまで俺を連れて来て」

「言っただろうが、話があるって。おっと、逃げるんじゃねえぞ。俺から逃げようなんざ、二万年早ぇ」


にやり、口角をつり上げてくる二階堂先輩から醸し出されるオーラはまんま俺様。


分類からして肉食系。

俺とは相反する性格の持ち主のようだ。