口元に手を当てて、俺は感涙する。

不況でも汗水垂らしながら働いている父さん、ありがとう。

貴方のおかげで俺、豊福空は初学食デビューを飾る事ができます。


美味しく学食を食べてきますんで安心して下さい。まる。


「よ。良かったな」


感涙する俺にアジくんは引き攣り笑いを浮かべ、


「空くんの家は大変だよな」


エビくんは同情してきた。


馬鹿、同情するな! 同情するなら金をくれ! 恵んでくれ!

俺は目尻に溜まった涙を拭うと、ハンバーグ定食に決めて二人と一緒に学食堂へと入った。

昼休みともなれば、学食堂は人でごった返している。

和気藹々としながら駄弁りながら飯を食う生徒達があちらこちらで見受けられた。


食券を買った俺達は、それぞれ頼んだ定食を係りのおばちゃんから受け取って席に着く。


夢にまで見た学食に俺のテンションは最高潮に達していた。

ハンバーグを一切れ口に入れて大感激。


嗚呼、これが三百五十円のお味なんだな。学食のお味なんだな。美味い。

ジーンと感動に浸りながら感想を述べれば、「350円のお味って」アジくんが苦笑いを零した。


「空。お前、もっと別の感想があるだろ。350円のお味って」

「いや……他に感想が思いつかない。とにかく美味い。うん。フライト兄弟、俺は生まれてきて良かったよ」

「誰がフライト兄弟だ。その名前で呼ぶな」

「いいじゃんかよ、笹野。俺、アジくんってのもフライト兄弟ってのも、結構好きだぜ」

「本多。お前は自分の名前に違和感を持たないのか?」

「これも一つのご愛嬌だろ」

ニッと笑うアジくんは男前だと思う。

イケメンじゃなくて男前。笑うお顔なんてキング・オブ・ザ男前。しかも優しい。だって俺にアジフライ恵んでくれたもんな!

対照的にエビくんは秀才肌って感じ。ツーンと空気が取り纏っている。傍から見ればツンツンくん。


でも中身は優しい。


だって俺にエビフライ恵んでくれたんだもんな。

俺はホックホクでハンバーグ定食を食べていた。嬉しさのあまり、始終顔の筋肉が弛みっぱなしだった。


半分くらい定食を食べ終わった頃、アジくんが「サラダと白飯はおかわり自由なんだぜ」と教えてくれた。