前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―



「すまなかったな、空」



隣に座る鈴理先輩から謝罪された。

視線を流せば、シュンと肩を落としている先輩がデートの空気を壊してしまったこと、高所恐怖症を気遣えなかったこと、それから許婚のことについて詫びられる。


許婚がいたことについては驚いたけど、前者二つについては然程気にしていない。


俺だって身形身分その他等々のことで空気を壊しちまったしさ。

高所恐怖症も、覚悟の上で追い駆けた結果だ。


泣いた俺が悪いんだし。


だけど先輩の気が治まらないのか、やっぱり詫びを口にして言葉を重ねてくる。


「大雅があんたの家庭の財力を蔑んだこと、許してやって欲しい。悪い奴ではないんだ。ただ財閥の子息になると、どうしてもそういった点を幼少から叩き込まれるからな」


「はあ、金持ちの子供も大変っすね。べつに俺は気にしていませんけど。
だけど、許婚がいるのに俺と付き合って本当に大丈夫なんっすか? しかも庶民の凡人と付き合っているなんて、ご両親が」


「大丈夫だ。大丈夫でなければ、とっくにばあや達に止められている。それに以前にも言っただろ。家柄など端っから気にしていない。気にしているのならば、あたしはとっくに……空を諦めていると。両親はあたしに期待などしてないだろうしな」


そういえば、さっきもそういうこと先輩、言っていたな。


「財閥の子はな」


遠目を作って語り部に立つ先輩は、そっと身の上話を切り出した。


曰く、財閥の子は将来の財閥を背負うために期待という圧力を掛けられて生きている。


物に不自由はない、けれど時間に自由がない。


時の自由を代償に、財閥の将来を背負う勉強に励むとかなんとか。


昔から先輩はそれが駄目で駄目で、どうしても時の自由を欲してしまい、両親を困らせていたとか。


「あたしは昔から変わった性格の持ち主でな。好奇心旺盛のじゃじゃ馬で、まったく令嬢っぽくないと教育係達の手を焼かせていた。本当に駄目だったんだ、そういう風に令嬢扱いされることも。姫のように振舞われることも。女性らしく振舞うことも。

あたしには姉妹がいてな。上に二人の姉、下に妹の四姉妹なのだが、飛び抜けてあたしは男勝りな性格。

姫らしく振舞える姉妹たちとは違って、どちらかと言えばあたしは男のように振舞う方が好きだった。性格の問題だから仕方が無いとはいえ、両親は困りに困ってな」