「ならば、今すぐ竹之内の名を捨ててやる。そうすれば、あんたの意見は覆り、空もそのような目で見られなくなるだろう。あんたも変人許嫁がいなくなって万々歳さ」
「は?」「へ?」大雅先輩と俺の声が揃う。
鈴理先輩、何を言って。
「財閥の令嬢だから、そのように思われるのだろう? 財閥の令嬢だから、空に気を遣わせてしまう。だったらあたしはいらない、令嬢の地位などいらない。
あたしはな大雅、空に一年も片思いをしてきたんだ。
ようやく結ばれる機会が手に入ったのに令嬢の地位が邪魔しているのならば、あたしはここで投げ捨ててやる。あたしはっ、あたしはっ、本気で空が大好きなのだ――!!」
周囲を轟かせる声音。
通行人たちが立ち止まり、野次馬と化す。大雅先輩は石化し、俺は赤面。
肩で息をする鈴理先輩は感情のまま顔を紅潮させ、悔しそうに下唇を噛みしめる。
「どうせあたしは姉妹と違って期待されていないんだ。どのような男と付き合っても、両親は何も言わないだろうさ。あんたとも親同士が決めた許婚。本気になれば白紙にすることなんて、明日にでも可能だろう」
……先輩、なんでそんな寂しそうな顔。あ、ちょっと!
「先輩、待ってください!」
昂ぶった感情を暴走させているのか、鈴理先輩が駆け出した。
慌ててその背を追うために、俺も磨かれた床を蹴る。更にその後ろを大雅先輩が追っているようだ。
「待てって鈴理! 誰もそこまで言ってねぇだろう! 待ちやがれ!」
どこかしら焦燥感を滲ませた声。彼なりに言い過ぎたと罪悪を感じているようだ。
けれど、大雅先輩は通行人と衝突。
ド派手に転倒し、俺達の後を追う事が困難になった。
なんだかタイミング良く衝突事故を起こしてくれたな、悪いとは思いつつ通行人達には感謝をした。
今の彼女は俺に任せておいて欲しい。否、俺が彼女を追い駆けたい。



